研究実績の概要 |
最終年度は、乳幼児期のダウン症児と母親の母子相互作用の推移を記述するための10組の母子の追跡を終了した。研究開始時のこどもの平均月齢4.7か月、研究終了時の平均月例は20.5か月であった。調査回数は平均6.5回であった。 母親の平均年齢は37.1歳、初産婦6名、経産婦4名、2名に抑うつ症状またはうつ病既往があった。愛着ー養育バランス尺度による養育システムでは7名が成熟軍、3名が未成熟群であった。研究開始時の自尊感情は日本人平均値と比し有意に低値だが終了時は有意差はなかった。外傷後成長は3名は平均値以上であった。児についてはダウン症児の体重増加、運動発達、社会・言語発達は発育曲線に沿った成長を認めた。 JNCAFS値(母子相互作用)は、月齢3~5か月では定型発達児より低いが児の随伴性は有意に高く、児は母親をよく見ていた。月齢10~11か月では定型発達児よりも社会情緒的発達の促進、認知発達の促進が有意に低かった。児のJNCAFS値は、定型発達児よりも半年のタイムラグを経て同等に上昇した。ただし一過性に落ち込み回復する事象を認める事例が複数あった。JNCAFS値と自尊感情、外傷後成長(PTGI-SF-J)に有意な関連はなかった。 母が児の認知発達を促進する関わりが現れるのは、定頸前からつかまり立ちするまでの1年以上を要した。17か月(つかまり立ちを獲得)の時期に、定型発達児の母子と同等のJNCAFS値となっていた。乳児期は子どものほうが親をリードする能力があることが示唆された。 本研究では、出生時から染色体疾患と診断されうるダウン症候群の他,プラダー・ウィリー症候群,22q11.2欠失症候群の調査を行った。ショックを受けた親に対して、子はそれを引き出すようなサインを示している。親はこどもの発達を契機に子への感情が高まり、成長過程で現れる特有の症状への対応に関心を変化していった。
|