研究実績の概要 |
乳腺炎時は母乳の味や成分が変化するが、このメカニズムは母乳の匂いに影響を及ぼし、乳児の授乳拒否の原因となる。そこで本研究は①正常な母乳と乳腺炎時の母乳の匂いを比較し、乳腺炎時の母乳の匂いの特徴を明らかにする、②乳児の授乳拒否時の母乳の匂いと乳腺炎時の母乳の匂いを比較し、乳腺炎時に児が授乳を拒否する原因に匂いの関与がどの程度あるのかを明らかにする、さらに③初乳・移行乳期の産後1週間と成乳となって安定する産後1か月の母乳及び乳頭の匂いから正常な母乳の匂いを明らかにすることとした。 ③は産後1・ 3・ 5日ならびに1か月時に匂いセンサによる母乳および乳頭・乳輪部の匂い強度の測定と、哺乳や乳房の状態に関する観察と聞き取り調査を行った。その結果、乳頭・乳輪部の匂い強度には経時的な変化があり、産後1か月目に比べて1日目と3日目の匂い強度が有意に高かった(1日目94.0、3日目112.9、1か月目45.1、値は基準ミルクとの相対値)。母乳の匂い強度の差は示されなかった。乳頭・乳輪部の匂いと吸啜時間は正の相関関係にあり、産後3日目の匂いが強いほど吸啜時間が長かった(r = 0.381, p = 0.017)。 ①②はCOVID-19感染拡大により実施困難となり、④乳児の授乳拒否行動が示す母乳の匂いの変化と乳房の不調に関するインタビュー調査に変更した。褥婦11名にインタビューを行ったところ、8名が授乳拒否を経験していた。授乳拒否を経験した褥婦は「カレーやニンニクを食べた時の母乳は臭い」という匂いの変化、乳児が拒否する母乳は「ドロッとしていて黄色っぽい」という性状変化を感じており、授乳拒否の原因と考えられた。授乳拒否後に乳房の不調を経験している褥婦や乳房の不調時に授乳拒否を経験している褥婦がみとめられた。一方、乳児が授乳拒否を示しても授乳を促すことで乳房の不調を改善している褥婦もみとめられた。
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