乳腺炎の発症は、母乳育児を困難にする。発症危険因子として経験的に食事があげられているが、科学的根拠は全く解明されていない。このため、統一したガイドラインが存在せず、母親たちを混乱させている。そこで、乳腺炎発症と食事成分との関係を実験的に解明することを本研究課題の最終的な目標とした。 妊娠が確認された10週齢ddYマウスを4群に振り分け、Normal Diet (ND)、High Sucrose (HS)食、High Fat (HF)食、High Fat High Sucrose (HFHS)食をそれぞれ摂食させた。出産後、授乳を17日間させた後、仔マウスの強制離乳によりうっ滞性乳腺炎を誘導した。先ず、肝臓ではND群と比較して、HFHS群で有意に好中球数が増加していたことから、HFHSは肝臓の炎症を引き起こしうることが示唆された。次に、乳腺組織ではHFHS群では浮腫が生じており炎症を示す染色像が確認された。さらにNF-κB p65リン酸化および好中球の遊走がND群と比較して有意に増強していたことから、HFHSは離乳によって発症した乳腺炎を重篤化させる可能性が示唆された。 マイクロアレイ解析から、肝臓では脂質代謝や輸送に関連するカテゴリーが多く抽出され、乳腺では炎症やアポトーシスに加え、脂質の受容や輸送に関連する遺伝子を含むカテゴリーが抽出された。これより、肝臓由来の脂質と乳腺に関連あることが推測された。また、乳腺組織ではLDL受容体に関する遺伝子が多く発現していたことから、乳腺組織中のTotal Cholesterolを定量したところ、ND群およびHS群と比較してHFHS群でCholesterol含量が有意に上昇していた。以上より、HFHSの摂食による乳腺炎重篤化の一つの要因として、肝臓より放出されたLDLを乳腺が受容していることが推察された。
|