本研究の意義は、災害による長期断水発生に備えて、応急給水を受けとる被災高齢者の立場に立ち、各自治体などが発行する既存の「災害への備えリスト」の給水袋に関する補足情報として、備えておく給水袋の選択方法と運搬方法の違いによる疲労の程度を明らかにした点である。内容は1日に必要とされる水3Lを給水袋に注水して、前期女性高齢者が運搬した時の心血管反応や体幹バランスを明らかにし、それらの結果をもとに給水袋の選択方法と局所部位の疲労を予防できる可能性がある水運搬用のベストを開発した。 本研究の重要性は、地域医療に携わる看護師やリハビリテーション職種が高齢者とともに体力や水運搬距離に即した給水袋の容量や水備蓄量の再検討が可能になった点である。 最終年度は前年度までに明らかとなった1日に必要とされる水3Lを給水袋に注水して運搬した際のエネルギー消費量、心拍数、体幹動揺総軌跡長等から運搬時の疲労の程度をもとに、日頃の「歩行速度」「歩行距離」「持ち歩いている荷物の重量」「歩行開始時のバランス」と照らしあわせることで、備えておく給水袋の容量や運搬方法を選択、検討できるよう日本災害看護学会などの学会で情報共有した。給水袋の容量は水3Lを10L容量の給水袋(給水袋に対して約30%の水量)に注水して背負って運搬すると給水袋内を水が揺れ動き運搬開始から約35mまでは体幹を左右に回転させる力が働くことが明らかとなり、背負って運搬するときは注水量は50%以上が最適、かつ運搬できる水の重量を決定した上で給水袋の容量を決定する重要性を導いた。 最終年度の成果は各自治体が発行する既存の「災害への備えリスト」にある「給水袋」とだけ記されている現状に対して個別性の検討を可能にしたこと、ならびに高齢者にとって疲労の少ない水運搬方法の確認は、応急給水訓練で給水袋を実際に運搬する経験が重要であることを情報共有した点にある。
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