2015年の介護保険法改定で、多職種による食事観察やカンファレンスの取り組みのプロセス等、経口維持支援に対し介護報酬加算が付くようになった。2019年、介護老人保健施設の経口維持加算Ⅰ・Ⅱの算定率はいずれも半分以下であり、多職種連携による経口維持支援は十分普及していない。認知症高齢者は意思確認が難しく、介護者側が主体となったケアに傾く可能性があり、多職種の専門性を超えた連携が求められる。しかし、教育課程の異なる職種同士の連携が促進される要因についてはわかっていない。そこで、本研究は摂食困難のある認知症高齢者における多職種連携を促進させる要因を明らかにすることを目的とした。2018年度は看護職・介護職・管理栄養士のテキスト内容を分析し、職種の専門性に応じた食事の観察と評価に違いがあることを明らかにし、多職種連携の重要性を示唆した。2018、2019年度にかけて介護老人保健施設7施設の看護師7名・介護福祉士6名・管理栄養士7名の計20名へインタビュー調査を実施し、2020年度はデータ分析を行った。その結果、施設職員は多職種連携を行うようになってから摂食困難のある認知症高齢者への対応の限界を認識し、ケア内容も変化していることがわかった。この結果から、多職種連携が促進される要因として①単独職種での限界の認識、②認知症症状の変動や意思把握の困難さの理解、③無理な食事摂取による認知症高齢者への弊害の理解という点が明らかになった。2021年度は、これらの認識と多職種連携との関連の検証をすることを目的とし、東北圏内にある介護老人保健施設の職員へ質問紙調査を行った。その結果、認知症高齢者の状態を日々観察する必要性を認識している施設職員は、嗜好や満足感を配慮していると回答する傾向が有意に高いことがわかった。認知症高齢者の情報の集積はその人の思いを明らかとし、かつ本人の意思を取り入れた多職種での連携に繋がることが示唆された。
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