研究課題/領域番号 |
18K10672
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中前 敦雄 広島大学, 病院(医), 准教授 (60444684)
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研究分担者 |
安達 伸生 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (30294383)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膝前十字靱帯(ACL) / スポーツ復帰 / 再断裂 / 靭帯再建 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、膝前十字靭帯(ACL)再建術後に再断裂を生じさせる重層的因子とその相対危険度を解明することである。ACL再建後に再断裂や機能不全を生じるリスクファクターについて幅広い項目を検討するためには、ACL再断裂や機能不全の症例数が多い必要がある。我々は当大学病院を中心にACL再建例についての多施設共同研究を行なっており、まずはACL再建時における関節軟骨損傷や内外側半月板損傷の合併に関連する因子について、約800例でロジスティック回帰分析や重回帰分析を行い英文医学誌に発表した。さらにACL再建後1年におけるPivot shift現象が残存する機能不全のリスクファクターについて、症例を増やして検討した結果、術前の大きなKneelax患健側差、女性であること、ACL再建法の3項目が因子として挙げられた。今後はこれらの研究内容について結果報告するとともに、当科単独での多項目の詳細な検討とは別に、多施設共同研究の症例においてもACL再建後に再断裂などを生じるリスクファクターの検討を行う。 また当科では、脛骨プラトー骨形態の個体差とともに、脛骨回旋不安定性の個人差に注目しており、本研究ではナビゲーションシステムを用いた術中膝関節不安定性評価を16歳以上の全ての初回ACL再建例で行っている。この研究の結果、1束ACL再建と2重束ACL再建では前方制動、脛骨回旋制動において差はなく、同様の機能を有していることが分かった。さらにこのナビゲーションシステムを用いた研究においてpivot shift testの定量化も行なっており、外側半月板損傷がpivot shift testの結果に影響を直接与えないことも示した。 ACL再建後の症例に対する三次元動作解析システムと床反力計を用いたフォワードジャンプの解析では、単一関節・基準面で再建膝の特徴は説明できないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ACL多施設共同研究において、ACL再建時の関節軟骨損傷(Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2022)と半月板損傷(Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. In press)の合併に関連する因子について回帰分析を用いて検討を行い、それぞれの損傷におけるリスクファクターを解明した。また、ACL再建後にpivot shift現象が残存する例は機能不全を示しているが、ACL再建後1年においてpivot shift現象が残存するリスクファクターを663例で検討し、前述の3項目が因子であることを解明した。さらにはACL再建後の患者立脚型評価スコアであるKOOSを予見する因子はsubscoreにより異なり、特に手術時年齢が高齢であること、大腿骨滑車部の軟骨損傷はスコア低値の有意な予見因子であり、他の因子と比べKOOS低値に大きく関与していたことを示した。また、pivot shift testにおける通常のIKDC gradingは患者立脚型評価の結果に有意な関連を示さなかった一方、pivot shift testのapprehension gradingによる評価では3つの項目において陰性群の方が有意に良好なスコアであったことを示した。 ナビゲーションシステムを用いた術中膝関節不安定性評価の研究では、1束ACL再建と2重束ACL再建では前方制動、脛骨回旋制動において差はなく、同様の機能を有していることが分かった(J Knee Surg. 2022)。 ACL再建後に対する三次元動作解析システムを用いたフォワードジャンプの解析では、再建側における膝関節や股関節でいくつかの特徴的な要素があることを示したが、いずれもROC解析における感度-特異度は十分ではなく、単一関節・基準面で再建膝の特徴は説明できないことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで蓄積してきた当院におけるACL損傷患者のデータをもとに、ACL再建後の再断裂や機能不全を生じさせる重層的因子とその相対危険度の解明のための解析を行う。対象とする因子は脛骨外側プラトー後方部分の形態と脛骨外側プラトー後方傾斜、徒手やナビゲーションシステム計測による術前の膝関節前方・回旋不安定性、CTによる骨孔位置、移植腱の太さ、性別、年齢などである。ナビゲーションシステムについてはpivot shift testの定量評価装置としても使用し、ACL損傷膝における外側半月板損傷の有無とpivot shiftとの関連についても調査する。 さらにACL再建例についての多施設共同研究については、現時点で約1300例以上を登録しており、当科での多項目の詳細な検討とは別に、ACL再建後に再断裂や機能不全を生じるリスクファクターについて検討していく。術前のpivot shift testのgrading(通常のIKDC grading とapprehension grading)に関連する因子を調査し論文化する。pivot shift testのapprehension gradingは通常のIKDC gradingより患者立脚型評価のスコアをより反映することが我々の研究で示されたため、今後このpivot shift testのapprehension gradingに関するさらなる検討も行う。また、術後短期におけるACL再建後の再断裂や機能不全が研究の主要な対象となる。Pivot shift現象や膝前方不安定性が残存するリスクファクターのほか、術後患者主観的スコア低値を予測する術前因子などの検討を行う。ACL再建後の患者立脚型評価スコアであるKOOSを予見する因子については、若年層と中高齢層で因子が異なる傾向が見られており、これについても詳細に検討し論文化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:新型コロナウイルス感染拡大により、発表や調査のための出張の機会が激減したため旅費が減少した。また当初は本研究で計画されていた購入設備である、MRI用前方・回旋ストレス発生装置を早期に購入する必要が生じ、別経費で購入したために初期の設備備品費が減少し、前年に繰越金が発生したが、その繰越金がまだ残ったため次年度繰り越しとなった。 使用計画:多施設共同研究の結果が早期に多く出てきているため、これらを学会などで広く発表する際に旅費が発生する。また論文化していく際の投稿料や掲載料として使用する。
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