虚血による神経軸索の変性を細胞内小器官の動態から観察しようと試みた。方法は疑似虚血環境として低酸素-低グルコース(OGD)環境を設定し、初代末梢神経節細胞培養法、遺伝子工学技法、タイムラプス顕微鏡観察、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、OGD下での軸索内Mtの動態を観察した。 その結果、OGD暴露は6時間行ったが、軸索の腫脹や神経細胞核の変性などは観察されなかった。軸索内Mtの観察では、OGD暴露1時間後に輸送Mtの抑制が観察された。また、OGD暴露6時間後に停留Mtの長さが有意に短くなった。さらに、OGD暴露6時間の軸索内MtをTEMで観察した結果、球状Mtが占める割合が対象群よりも多く、OGD暴露6時間の軸索では球状Mtの占める割合が多くなることが明らかとなった。さらに、タイムラプス顕微鏡の観察より、停留Mtの長さが短くなった原因として、①輸送Mtの停止、②軸索内Mtの分裂、③停留Mt自身の短縮が観察された。 以上の結果より、OGD刺激は、輸送Mtの抑制、軸索内Mtの分裂の誘導、停留Mtの短縮を誘導し、結果的に軸索内Mtの球状化を誘導することが明らかとなった。また、これらの軸索内Mtの変化は神経細胞が変性するよりも前に観察されたことから、神経細胞死よりも先行して軸索内Mtの動態が変化することが明らかとなった。 以上のことから、OGDで誘導される軸索内Mtの変化は神経細胞の変性よりも先行して観察される現象であり、これは、ミトコンドリアが、虚血による神経細胞障害の治療ターゲットとなる可能性を示唆している。
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