高齢者の認知機能と運転能力の関係は、安全上重要な意味を持つ。本研究では、現役高齢運転者の運転関連能力と認知機能を調査して、特性の違いに注目した。軽度認知障害の高齢運転者の能力を明確にするために、認知能力を比較するレトロスペクティブ・コホート研究を行った。現役高齢運転者を非認知症群18名と認知症群22名、軽度認知障害群23名で比較した。認知症群22名は、他の2群よりも全般性の認知機能と前頭葉機能が低下し、注意と判断を必要とする認知機能が有意に低下していた。また、運転能力もペダル操作反応が遅くバラツキを認め、交差点内では有意に速度を落として曲がっていた。軽度認知症群23名では、正常群と比較するとペダル操作や交差点速度には差を認めないが注意を必要とした運転項目で低下していた。これらから認知症群では全般的な認知機能のみでなく運転機能のペダル操作や車体操作の能力が低下し、軽度認知障害では注意を基盤とした運転能力が低下する傾向を認めた。 認知症の疑いがある認知能力が低下した高齢運転者に運転リハビリテーションを実施した。運転リハは認知機能評価とドライブシミュレーションによる運転評価を行い、個人の低下している能力に応じた運転リハを1か月間で8回実施した。自然経過を比較するために、軽度認知機能低下した高齢運転者14名で1か月の前後変化を確認した。前頭葉機能評価は向上しており、運転評価は停止位置項目が有意に向上していた。運転リハ実施群17名では、運転リハ前後比較では全般性の認知機能、前頭葉機能や処理速度が向上していた。運転能力では注意が必要なペダル操作を安定してでき、停止位置が正確になった。これら2群間の1か月の変化量の比較では複数の認知項目で有意に運転リハ群が変化していたが、運転項目では有意差を認めなかった。 認知機能低下による運転能力の違いを示し、運転リハによる支援の可能性が示された。
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