研究課題/領域番号 |
18K10699
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研究機関 | 熊本保健科学大学 |
研究代表者 |
岩下 佳弘 熊本保健科学大学, 保健科学部, 講師 (70623510)
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研究分担者 |
飯山 準一 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (00398299)
桑原 孝成 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (00393356)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 全身温熱刺激 / シスプラチン誘発性腎症 / TRPV4 channel / Hsp27 / 炎症 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにシスプラチン投与前の全身温熱プレコンディショニング(mild systemic thermal preconditioning: MSTP)がシスプラチン誘発性腎障害を軽減することを確認した。温度センサーのひとつであるTransient receptor potential vanilloid 4(TRPV4)は40℃前後で活性のピークが報告されており、我々が用いる熱強度で最も活性化していると考えられることから、TRPV4の関与について検討した。 シスプラチンを投与して72時間後の腎機能およびマウス腎組織でのTRPV4発現を①コントロール、②シスプラチン投与(Cis群)、③MSTP後シスプラチンを投与(MSTP+Cis群)、④TRPV4阻害剤(HC-067047)でMSTPによる熱受容を阻害しシスプラチンを投与(Inh+MSTP+Cis群)、⑤TRPV4阻害のみでシスプラチンを投与(Inh+Cis群)の5群で、シスプラチン投与から72時間後の腎機能、腎組織を比較検討した。 Cis群のクレアチニン値、BUN値、尿細管傷害はコントールに比して有意に増加したのに対して、他の群では有意な減少あるいは減少傾向を示した。Cis群の腎組織でのTRPV4の発現は、コントロールに比して有意に増加しており、MSTPの実施によりコントロールと同程度の発現に抑えられた。TRPV4を阻害したMSTP+Cis群のTRPV4の発現はCis群の1/3程度であった。炎症関連mRNA、Hsp27も同様の発現であった。 これらの結果は、MSTPの効果はTRPV4のみならず他の熱受容チャネルも介していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TRPV4は浸透圧受容や熱受容タンパク質として腎臓に高発現しているTRP channelのひとつである。今年度の実験において、TRPV4はシスプラチン腎障害で発現が増加し、阻害することで腎障害が軽減することが確認された。また、TRPV4を薬理的に阻害してもシスプラチン誘発性腎障害が軽減されることから、熱受容以外に腎障害の進展に関与している可能性が示唆された。このことが確認できたことより、おおむね順調な進展であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
MSTPによるシスプラチン誘発性腎障害の軽減にTRPV4の関与が示唆されたが、熱受容効果はTRPV4以外も関与していることが考えられる。今後TRPV4を薬理的に活性化させたときや他熱受容蛋白質(TRPV1を想定)を阻害させた実験を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質発現量の自動解析システムの評価や使用への慣れなどを優先し、また、その測定キットが高額であるため、2018年度年度予算を2019年度で使用する方が正確で信憑性の高いデータが得られると考えられたために持ち越すこととした。2019年度は、従来法と比べて測定精度が高く、バイアスが入りにくいタンパク質発現量自動解析装置を用いてTRPV channel、HSP、TNF-alfa等の炎症関連のタンパク質発現の解析を実施していく予定である。また今回の実験で、TRPV4のみならず他のTRP channelも相互に関与している可能性が考えられたことから、新たに実験を追加して機序の解明に向けた実験を促進させる計画である。
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