我が国の高齢者の割合は28.7%と過去最高を記録し,急速に高齢化が進んでいる.高齢者の2割が転倒を年に複数回経験し,転倒から引き起こされる健康問題と医療費問題は早急に解決されなければならない社会問題となっている.そのため,我々は転倒予防の観点からバランス能力の改善を目指し姿勢制御の学習メカニズムについて研究してきた. 本年度,健常若年者を対象として足趾が姿勢制御に関与する可能性について調べた.対象者は床反力計の上に立ち,両肩関節90°位から錘を落とす課題を行った.立位の条件として足趾を床に着くか,浮かせるかの4条件を設定した.その結果,腓腹筋と大腿二頭筋に筋活動抑制の減少が認められ,足趾が1本でも浮いていると姿勢の制御に影響が出現することを発見した.特に,錘を落とす直前の予測的な制御に足趾が影響を及ぼしたことから,足趾トレーニングにより予測的姿勢制御が改善し,バランス機能向上や転倒予防に繋がる可能性が示唆された.継続して,高齢者も若年者と同様なメカニズムで足趾が姿勢制御に関わるかを調べ,さらに姿勢学習についても検討し,高齢者の転倒予防に繋げたい. 別の実験として,高齢者の足関節運動制御について調べた.立位バランスを保つために常に働き続ける前脛骨筋と腓腹筋の活動において,健常者は相反的に抑制する制御が働くが,高齢者は同時収縮的に制御が働くことを確認した.このことは,高齢者はバランスの微調整のための力開放能力が低下していることを示唆している. このように,高齢者のバランス能力の現状を把握し,その示唆から考えられる能力低下予防のため,立位姿勢の動揺に関与する筋の機能を向上させる方法を検討すべきである.今後,筋への振動刺激により筋緊張を変化させることが可能であるので,立位バランスへの振動刺激の効果と体性感覚の関与を高齢者や中枢神経疾患患者で調べ,バランス能力改善方法の開発を目指す.
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