AMPAおよびGABA受容体を介したシナプス可塑性は、記憶・学習などの高次脳機能に関与する。大脳皮質一次運動野 (M1) においては、運動学習後に長期にわたりシナプス伝達効率が上昇することが報告されているが、その神経メカニズムはよく分かっていない。本研究では、脊髄又は線条体に逆行性トレーサーをインジェクションして、異なる投射先を持つV層細胞を標識した後、急性脳スライス標本を用いてラット (4週齢) 一次運動野V層のニューロン活動を記録した。運動学習課題としてローターロッドテスト (1日10試行) を最大2日間行った。 ラットは1日目のトレーニング中からロッド上滞在時間を徐々に延長させ、2日目には学習スコアはプラトーに達した。微小興奮性シナプス後電流は運動1日目では振幅のみ、微小抑制性シナプス後電流は運動トレーニングを繰り返すことによって、振幅・頻度ともに非学習群と比較して有意に上昇した。次に、非学習群、トレーニング1日群、トレーニング2日群の3群から一次運動野Ⅴ層からサンプルを採取し、ウエスタンブロッティングによってGABA受容体サブユニットβ3のリン酸化を調べた。トレーニング1日目の学習後にGABA受容体のリン酸化が有意に減少していることが確認された。これらの結果は、運動トレーニング後のV層細胞ではII/III層とは異なる様式のシナプス可塑性が引き起こされることを示唆する。一次運動野V層における錐体路と錐体外路のシナプス可塑性が明らかになった。
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