本年度は,ヒト骨格筋における力学的な特性の可塑性解明および運動療法の基盤形成にむけて,筋メカニクス評価の生理学的および臨床的な意義の確立に関わる実験をおこなった.筋組織は粘弾性体であり,筋弾性を画像評価する試みが進められているが,筋の粘性自体を個別に評価することは困難であった.そこで本研究は足関節角度の変化と静的ストレッチングがヒト生体における腓腹筋内側頭の弾性および粘性に与える影響を調査した.対象は若年健常人とし,被検筋は腓腹筋内側頭とした.剪断波エラストグラフィ搭載超音波装置を用いて下腿長の近位30%における長軸像で撮像した.肢位は腹臥位で股,膝関節は伸展0°とした.足角度の操作はダイナモメーターを使用し,他動的に底屈30°,底屈15°,背屈0°でそれぞれ保持した.静的ストレッチングでは他動的に足背屈最終域を1分間保持する課題を5回実施した.その結果,弾性は交互作用および角度の主効果を認め,背屈0°でストレッチング後の弾性が14.2%有意な低下を示した.粘性では交互作用および時間の主効果はみられず,角度の主効果のみが認められた.角度要因の検討として,弾性では角度変化に伴い弾性は増加し,各角度間で有意な差を認めた.一方,粘性では底屈30°と15°の間には差を認めず,背屈0°が底屈30°と15°よりも有意に高値を示した.筋弾性は足背屈に伴い弾性が増加し,筋伸長位でストレッチング効果が確認された.一方,粘性では有意なストレッチング効果がみられず,足角度変化による影響も弾性と一部異なった.剪断波エラストグラフィで得られる弾性と粘性はそれぞれ筋の異なる力学的性質を評価しており,粘性は静的ストレッチングによる変化が少ない可能性が示唆された.これらの知見は剪断波イメージングを用いた筋メカニクス評価の臨床的有用性の解明と運動療法の基盤形成に繋がると考える.
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