脳出血後に麻痺側上肢を強制使用させるリハビリテーションによって上肢運動機能が改善されるが、小脳を中心とする運動調節系の関与という視点から実験を進めた。 まず初めに、小脳-赤核路のウイルスベクター二重感染の最適化を行い、小脳-赤核路へウイルスベクターを効率的に二重感染させることが可能となった。 次に、DREADD法を用いた小脳赤核路の神経遮断による上肢運動機能の評価を行った。すなわち赤核へレトルウイルスベクター(FuG-E-MSCV-Cre)を小脳外側核へアデノ随伴ウイルスベクター(AAV-DJ-EF1-DIO-hM4D(Gi)-mCherry)を投与し、脳出血後のリハビリテーションによる上肢機能の評価をペレットリーチング試験により実施した。その結果、出血後のリハビリテーションにより12日後に改善を示した上肢機能が、CNO投与によりその改善効果が消失すること、さらにCNO作用は投与3時間後に消失することが確認された。つまりCNO投与による小脳-赤核路の選択的神経遮断によって、脳出血後の麻痺側集中使用による上肢機能の改善が有意に消失することが示された。 小脳外側核刺激による赤核での電気応答変化の確認では、多点電極ローブを用い小脳外側核を電気刺激し、赤核小細胞部から得られた集合電位を計測評価した。これまでに小脳外側核刺激に応答する集合電位は生食投与1時間後まで大きな変化がないのに対し、CNO投与群では投与20分以降に最大35%程度の電位減少することが確認された。実験試行回数を増やす必要はあるが、CNO投与による小脳-赤核路の神経遮断効果の電気生理学的な傍証が推測された。
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