本研究においては、原発性進行性失語症(PPA)における音韻・統語機能障害について、発話面から非PPA例および脳血管疾患による失語症例との違いを明らかにするために、発話症状とその分析方法の基礎的検討を行った。 初年度は、PPA疑い例の認知・言語機能の後方視的分析を行った。またPPA例に状況画の文産生検査を実施し、音韻的障害とは独立して統語機能障害を呈する例が存在すること、文構造の狭小化が生じうる可能性を提示した。また、健常例の発話分析からその統語的特徴を示した。2年目は、発話分析に関する先行研究を調査分析した。また、個別ケースの症状を詳細に検討し、学会発表を行った。テキスト分析の手法に関する調査および一部の方法に関する研修を受けてデータ解析方法に活用した。 3年目と4年目は、COVID-19の影響が長引き、新規データの取得が困難であった。しかし、第1に、後方視データの収集を実施し、解析を進め、失語症の文の障害に関する先行研究調査を継続し、一部を雑誌論文として発表した。また、海外および本邦のこれまでの先行研究を踏まえつつ、日本語の特徴を明らかにする発話分析方法に関する定期検討会を開催し、「分析の手引き(案)」としてまとめた。これについてはより一般化することを目的に、検討を継続している。また、これを用いた試行的分析から得た結果について学会発表を行った。次に、統語機能障害から生じる実生活のコミュニケーション活動制限について経時的変化を追うための評価シートの作成検討班を立ち上げ検討を継続した。 5年目と6年目は、これまでの成果の一部を含めた原発性進行性失語および失語症におけるこれまでの文の統語機能障害に関する先行研究の系統的調査を行い、日本語の文法障害臨床の現在地点を示す書籍を上梓した。
|