研究課題
令和元年度は、平成30年度の議論・予備調査に基づき、5名の吃音のある幼児を対象に①吃音の頻度と重症度、②発話に関連する運動能力(構音の正確性・構音可能速度・運動テンポの安定性)、③親子の遊び場面における自由会話のデータを、数回の来所時に分けて収集した。そのうち、年度初期にデータの収集が可能であった3名について、親子の遊び場面における自由会話の発話の分析を行った。分析の観点は、①子の吃音症状(非流暢性)、②親子の構音速度、③子の発話長(発話モーラ数)、④turn taking gap(親の発話の終了時点から、続く子の発話開始までの時間)とした。分析の結果、親と子の構音速度の間、および親子の構音速度とturn-taking gap・非流暢性との間にはそれぞれ相関が認められなかった。一方、子の非流暢発話を含む Inter Pausal Unit (IPU:200ms以上の無音区間によって区切られた音声区間)と含まないIPUの直前のturn-taking gapの平均値について比較を行ったところ、非流暢発話の直前のgapの平均値が有意に大きいことが示された(p < 0.01)。また、意味で区切った非流暢発話と流暢発話のモーラ数について比較を行ったところ、年少児2名において、非流暢発話は流暢発話よりモーラ数が大きいことが示された(p = 0.004, 0.037)。このことから、非流暢な発話は、親の発話終了から時間経過が長いタイミングで、発話長の長いの発話を産出するときに出現しやすいことが伺われた。
3: やや遅れている
本研究では、病院での言語訓練受診者を対象に、来院時にデータを収集する方法を取っており、時間的な制約から多くのデータを収集することが難しかった。そのため、全体的なデータ数の不足や、各対象者における継続的なデータ収集の困難があり、分析が部分的にしか進められなかった。これらに対する解決策として、データ収集の方法について再検討し、対象者に自宅での自由会話の録音を依頼することとした。これについて、再度倫理審査を受診するなどの手続きに多少時間を要したため、進捗はやや遅れている。
令和2年度は、対象者数と、対象者一人当たりのデータ数を増やし分析を進めると同時に、それぞれの対象者の発達や非流暢性症状の変化を含む時間的要素も分析の観点に取り入れ分析を行う。協力者の募集を言語訓練担当の言語聴覚士(研究協力者)が、吃音(非流暢性)の評価を研究代表者が、構音速度等の発話分析を研究分担者がそれぞれ担うようにし、作業を分担して進めることで、研究の進度を上げ、年度中に成果を報告することを目指す。
収集できたデータ数が少なかったため、研究協力者への謝礼金、データ加工処理を担当する補助員へのアルバイト費用が当初の予定より少なくなった。繰り越した研究費は、今年度に増やす予定であるデータの分析にかかる上記の費用(研究協力・アルバイトへの謝礼)に充てる予定である。また今年度は国際学会での成果報告も予定しており、それらの出張費に研究費を充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Journal of Speech, Language, and Hearing Research
巻: 63 ページ: 688-701
10.1044/2019_JSLHR-19-00393