研究課題/領域番号 |
18K10737
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
竹原 有史 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90374793)
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研究分担者 |
川辺 淳一 旭川医科大学, 医学部, 特任教授 (10400087)
田中 宏樹 旭川医科大学, 医学部, 助教 (70596155)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サルコペニア誘導心機能不全 / 心臓悪液質 / exosome / miRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、入退院を余儀なくされる慢性心不全患者が有する身体的背景“心臓悪液質”に対し、これを生み出すサルコペニアに着目しその機序解明と、治療介入のアプローチとして「リハビリテーションと細胞移植」という新たなコンセプトを検証する。 2018年度は実験的虚血心マウスに与えるサルコペニア誘導の影響の解析及びその機序の解明について、実験モデルの確立と機序解明に向けた骨格筋・心筋内遺伝子の網羅解析に基づく候補因子の同定を行った。 実験モデルは虚血再還流(I/R)心筋梗塞マウスに対し1週間の尾懸垂でサルコペニア誘導を行うことで作成した。I/R翌日に左室駆出率(LVEF)で約40%まで低下した心機能はTS8日後で8%の回復を見せたが、サルコペニア誘導群ではその回復は1.6%に留まり、サルコペニアによる心機能回復傷害モデルが確立された。 本モデルにおいてまず骨格筋側、心筋側から変動する遺伝子をPCRアレイで解析を行ったところ、Fstl1やOPN等興味深い関連因子が抽出されたが、群間比較を行ったところ明らかな相関は見いだすことができなかった。次に骨格筋―心筋連関として循環血を介して作用する血中exosome内のmiRNAに着目し、両群において網羅解析を行った。各群3個体において約2万のmiRNAを解析した結果、pathway解析では主に「悪液質」に関連すると考えられる「cancer pathway」や、筋・細胞骨格に関連する「actin pathway」などの経路の賦活化が両群で異なることが判明した。また個々の因子の解析からはmiR-16系、miR-24系のmiRNAの発現量がサルコペニア誘導群で明らかに亢進しており、サルコペニアによる心機能回復傷害にこれらmiRNAの関与が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に予定していた実験的虚血心マウスに与えるサルコペニア誘導の影響の解析について、実験モデルの確立については安定した心機能回復不全のマウスモデルの確立に成功している。また、本モデルにおけるサルコペニア誘導解除4週後の長期観察群では、サルコペニア誘導で機能回復不全に陥ったマウスにおいて4週後のLVEFにおいてもその機能の回復は認められず、虚血後1週間のサルコペニアが永続的な機能障害を誘導することも確認された。本モデルは骨格筋への細胞導入療法の効果を検証するモデルであり、2019年度以降の研究の推進に向けて順調な進捗であると考えている。 一方、機序解明に向けた候補因子の同定については、当初行った骨格筋、心筋内遺伝子における解析では候補因子の抽出までは達成されたものの、結果として機序を解明するためのkey moleculeの同定には至らなかった。原因として、臓器間の連関性を個々の臓器で解析することで機序を解明することが困難であると考えられたため、研究計画に従い骨格筋―心筋連関として循環血中exosome内のmiRNAの網羅解析を実施し、誘導された機能不全モデルにおいて「悪液質」と関連するpathwayの賦活化が誘導されていることを明らかにした。さらに候補因子の同定に関しても有意な差を持った複数の候補miRNAが抽出されており、こちらも順調な進捗を得ていると考えている。 最後に2019年度予定の骨格筋への細胞導入療法の効果検証に向けての準備状況については、既にマウス腹腔内脂肪由来の間葉系幹細胞(ADSC)の樹立・クローン化に着手・成功している。さらにこのADSCを移植細胞としてI/R後サルコペニア誘導群の骨格筋に移植した結果、機能回復不全を呈していた心機能が移植群においては移植後14日目頃から回復、4週後まで機能改善が持続することが確認されておりこちらも進捗は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度はまず機序解明に向けた候補因子の同定について、抽出されたmiR-16系、miR-24系のmiRNAを中心にそのターゲットとなる遺伝子の発現調節が骨格筋及び心筋において如何になされているかをin vivoモデルの検体で解析する。並行して、抽出されたmiRNAの役割を骨格筋細胞、心筋細胞を用いてin vitroの系で解析する予定である。既に骨格筋細胞についてはC2C12細胞からのmyotubeを、心筋細胞については新生児ラットからの培養心筋細胞の樹立に成功しており、これら細胞にin vivoの虚血を模した低酸素等の負荷をかけた際の培養液中のexosome-miRNAの変動を解析する。さらには候補miRNAのmimic geneを用いて、直接的な影響を各々の培養細胞で検証する予定である。 サルコペニア誘導心機能回復不全モデルにおける、骨格筋への細胞導入療法の効果検証については、既に確立した虚血後1週間のサルコペニアによる永続的な機能障害モデルを用いて、まずはADSCを移植細胞としてその心機能回復効果を検証・確立する予定である。その効果が明らかになった場合、一つはin vivoにおける機能回復不全に関与したexosome-miRNAの果たす役割と、in vitroにおけるmyotube-ADSC共培養系でのmiRNAの影響の解析をさらに進めて行く予定である。 最終年度に向けてはさらなる細胞移植による機能改善をめざし、我々の開発した毛細血管由来幹細胞(CapSC)を用いた検証と、運動療法の併用効果を検証する予定である。トレッドミルは既に研究室に配備され、現在予備実験として、サルコペニア誘導心機能回復不全マウスの運動療法プログラムを確立中であり、最終目的である「リハビリテーションと細胞移植」という新たなコンセプトの確立に向け更なる研究の推進を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はマウスの運動療法確立のため、運動負荷装置を導入した。また、実験動物の購入、網羅解析の実施に研究予算を充当したが、年度末に50000円の残額が生じたためこれを次年度使用額として使用する。使用目的は遺伝子解析試薬とする。
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