研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の管理目標の一つに運動耐容能を高めて身体活動を維持すことが掲げられている。日常生活場面での運動能力をよく反映する運動耐容能の評価法として6分間歩行試験が理学療法士やリハビリ医を中心に国内外の臨床場面で行われている。歩行中の息切れが同試験の歩行距離などのアウトカムに関連することは報告されているが、実際に同試験中の呼吸数・胸郭運動がどのようなパターンをとるのか、また試験成績との関係は分かっていない。本研究はCOPDの患者を対象に6分間歩行試験中の呼吸数の変動パターンが、運動耐容能にどのように影響しているのか、呼吸パターンに影響する要因間との関連について明らかにすることを目的としている。初年度となった前年度は、基準となる健康な成人における運動中の呼吸パターンを明らかにすることを目的に健常者を対象にウェアラブルセンサを用いて6分間歩行試験を行い、並行して倫理審査の承認を得た三つの医療機関において23人のCOPD患者から6分間歩行の協力を得ることができた。本年度は更に27人のCOPD患者からの協力を得ることができ、累計50人のCOPD患者のデータを蓄積することができた。実験では、呼吸数の時系列変化の特徴を明らかとするとともに、呼吸数と運動耐容能の関連を検討した。COPD患者は、若年健常者に比べて安静時から試験後まで呼吸数が高くなっていたが、両群共に4分目には増加が緩やかになっていた。休止の無いCOPDでは、増加のパターンは若年者と同じであったが、試験前から呼吸数が高い状態が保たれていることが明らかになった。本実験は初めてCOPDの6分間歩における呼吸数の変化パターンを明らかにした。本年度に行った実験結果は学会にて成果を発表している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は若年健常者23人とCOPD患者50人のデータを対象とし、6分間歩行試験中の呼吸数の変動パターンが、運動耐容能にどのように影響しているのか、呼吸パターンに影響する要因間との関連について分析を行った。対予測歩行距離と呼吸数との関連を相関分析した結果、運動中の呼吸数は歩行距離と関連が認められず、試験前後の呼吸数が歩行距離と弱い相関を持っていた。運動中のRRの時系列変化の増加パターンは若年者とCOPDで類似していたことから、運動負荷に対する呼吸数の単純な増加パターンは運動耐容能と関連が薄いことが明らかとなった。一方で、歩行前の安静時および歩行後の呼吸数とは有意な相関が認められた。安静時から呼吸数が高いほど運動負荷に対する呼吸数の増加の余地が少ない可能性が考えられた。また運動耐容能が低いほど呼吸数が下がらないことから、動的肺過膨張による一回換気量の増加制限により呼吸数で換気量を維持する戦略がとられている可能性が考えられた。これらの研究結果は、第59回日本呼吸器学会で「慢性閉塞性肺疾患における6分間歩行試験中の呼吸数に関する研究」として報告、第29回呼吸ケア・リハビリテーション学会で「6分間歩行試験におけるCOPD患者の呼吸循環応答と歩行距離の関連」として報告した。また、WCPT(World Confederation for Physical Therapy/世界理学療法連盟)と、ERS(European Respiratory Society/欧州呼吸器学会)に参加し、呼吸を含むリハビリテーションの最新動向を把握するために情報収集を行った。以上から患者データの蓄積および、データ分析について概ね計画通りに進捗している。
今後は得られたデータを更に分析することで、重症度も考慮した呼吸数と運動耐容能の関連をより詳細に検討していく。また、低酸素血症の有無に対して呼吸数が影響を与えているのかについても検討を行っていく予定である。更に、6分間歩行試験におけるCOPD群の高い呼吸数が確認されたが、本研究では加齢による影響は十分に考慮されていない。今後は、COPDの無い同年代の高齢者を対象に6分間歩行試験を行って、今回得られた結果が年齢を考慮してもCOPDの特徴と言えるのか明らかにする計画である。既に2020年4月に神戸大学大学院保健学研究科において倫理審査の承認を得た。新型コロナウイルス感染症による影響を注視しながら、地域在住高齢者を対象とした実験を企画していく。
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Med Biol Eng Comput
巻: 57 ページ: 2741-2756