研究課題/領域番号 |
18K10745
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中西 一義 日本大学, 医学部, 教授 (60403557)
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研究分担者 |
安達 伸生 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (30294383)
砂川 融 広島大学, 医系科学研究科(保), 教授 (40335675)
木村 浩彰 広島大学, 病院(医), 教授 (60363074)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動作解析 / 脊椎骨盤アライメント |
研究実績の概要 |
健常者11例(コントロール)、全人工膝関節置換術予定の変形性膝関節症14例(OA)に対して赤外線カメラ16台による三次元動作解析装置 (VICON MX, Vicon Motion Systems社製, 100Hz) を用いたモーションキャプチャは計測を終了しており、前年度に行った歩行時における体幹・下肢の動作解析をもとに、歩行の改善がみられなかった症例について検討した。膝関節屈曲/伸展角度、体幹前傾角度、骨盤前傾角度を計測し、静止立位時と動作時の角度について検討を行った。歩行の改善がみられなかった症例においても、歩行時立脚相の膝屈曲角度は術前と比べて増加し、体幹前傾角度は術前と比べて低下し、改善を認めたものの、手術してない側の下肢機能の低下が歩行動作の悪化の原因と考えられた。 また、昨年度に引き続き、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ内臓フラッシュメモリレコーダ (MVP-FM8-AC, MicroStone) を使用し、健常成人12例に対して、前述のVICONを用いた計測と同時に、本センサを第7頚椎、第3腰椎部皮膚上に設置して、歩行時の計測を試みた。また、同時に床反力を計測した。これら3つの同期された計測値を解析し、頸椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症、変形性膝関節症に応用する予定である。 更に昨年度は、超小型6軸慣性センサ(MP- M6-06/2000C, MicroStone) を用いて、頚髄症の手指巧緻運動機能の評価を開始した。健常者60人、頚髄症患者30人に対して、超小型6軸慣性センサを示指、小指の爪に貼付し、手指の開閉運動を30秒間計測した。頚髄症の示指、小指の角速度は特に伸展時で健常者に比べて低値であり、頚髄症患者の中で、頚髄症が重度の群で低値を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
健常者11例(コントロール)、全人工膝関節置換術を施行した変形性膝関節症14例(OA)に対しては、VICON を用いたモーションキャプチャを終了しており、データを解析することができた。全人工関節置換術後に歩行の改善がみられなかった症例について、膝関節屈曲/伸展角度、体幹前傾角度、骨盤前傾角度を計測し、静止立位時と動作時の角度について検討を行った。歩行の改善がみられなかった症例においても、歩行時立脚相の膝屈曲角度は術前と比べて増加し、体幹前傾角度は術前と比べて低下し、改善を認めたが、手術してない側の下肢機能の低下が歩行動作の悪化の原因と考えられた。しかし腰部脊柱管狭窄症など、腰椎疾患については新型コロナウイルス蔓延の状況下で計測がほとんど行えなかった。 また、超小型6軸慣性センサを用いて、頚髄症の手指巧緻運動機能の評価を開始した。健常者60人、頚髄症患者30人に対して、超小型モーションレコーダによる手指の30秒間の開閉運動における示指、小指の加速度、角速度の計測を終えており、データを解析することができた。健常者、頚髄症患者いずれにおいても、30秒間のうち最初の10秒で角速度が最大で次の10秒、その次の10秒と角速度は低下した。健常人においては、若年群に比べて高齢群で手指屈曲伸展時の角速度が低下していた。頚髄症においては健常人に比べて手指屈曲進展時の角速度が低下しており、特に伸展の角速度が低下していた。さらに角速度低下は重症群で著しかった。示指に比べて小指での低下が顕著であった。また、頚髄症患者では屈曲から伸展への切り返しに時間がかかることも特徴であった。これらの所見は最初の10秒から健常者と頚髄症患者との間で差を認めた。しかし頚髄症に対して頸椎椎弓形成術を行った症例における、手指運動の手術後の変化については、新型コロナウイルス蔓延の状況下で計測がほとんど行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、VICON を用いたモーションキャプチャによる計測に加えて、日常生活動作を評価するウェアラブルデバイスとして、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ内臓フラッシュメモリレコーダや、超小型6軸慣性センサを用いて、変形性膝関節症患者、慢性腰痛症、腰部脊柱管狭窄症や、頚椎部圧迫性脊髄症、高齢者、特にサルコペニアによる日常生活動作障害のある患者の脊椎骨盤アライメントや四肢運動機能の評価を進める。フラッシュメモリレコーダは24時間以上の計測、記録が可能であり、自宅での日常生活動作に特有な加速度、角速度の抽出を行い、特性を分析する。また、頚髄症については術後のデータを収集することができなかったため、再度術前からの評価を再度行い、手術後の計測を行う必要がある。また、これまでは30秒間の手指屈曲伸展運動の計測を行ったが、運動開始から何回屈曲伸展を行えば異常を同定できるか検証する。さらに、指を可動域全域に渡って屈曲伸展する場合と、可動域全域に渡らない場合は異なる可能性があるため、「なるべく早く」とだけ支持した課題と、可動域全域に渡っての屈曲伸展を行った場合の違いを検証する。 疾患特有の四肢体幹運動のパターンを同定し、程度を評価することができれば、非侵襲的に疾患の診断や重症度の評価ができる診断ツールとなる可能性がある。これを検知してスマートフォンなどで出力することができれば、転倒予防などの目的で使用できるかもしれない。 さらに、これらと同時に撮影したビデオ動画より四肢、体幹のモーションキャプチャを試みる。前述の計測データとの関連を検討することにより、ビデオ動画のみによる四肢体幹運動機能評価ができるかどうか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ内臓フラッシュメモリレコーダ、及び小型6軸慣性センサ を用いた研究は新型コロナウイルス蔓延の状況下でほとんど計測が行えなかった。健常者や、変形性膝関節症患者、腰部脊柱管狭窄症や、頚髄症などにこれらの計測を適応し、日常生活動作についての研究を進めていく上で、指摘な周波数帯域を検証する必要がある。しかし、健常人の手指機能測定における周波数帯域については、2000Hzが適切との知見を得て機種選定ができているので、脊椎骨盤アライメントの機能評価においてもこれ以上の周波数帯域は必要ないと考えている。今後は予定通り機種およびソフトウェア、消耗品を追加購入する予定である。これらの研究の結果をふまえて、人工知能を用いたソフトウェアの開発を試み、将来ウェアラブルデバイスとして使用できる知見を得たい。 頚髄症などにより手術が必要な患者については、当院ではPCR検査を行った上で入院していただいており、入院時あるいは外来受診時に院内での計測を予定している。計測のためのみに来院していただく被検者の計測については、インフォームドコンセントを得た上で行う予定としている。 当該研究はヒトを対象としており、健常者、患者の計測は新型コロナウイルス蔓延に影響され、極めて制限されたため、費用を使用することができず、次年度使用額が生じ、また、やむを得ず研究期間を延長することとなった。
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