研究実績の概要 |
骨格筋は再生可能な組織であるが、重度な筋損傷をうけると再生が遅延し瘢痕組織が残存する。筋内の瘢痕組織の増加は、筋力低下や筋伸張性低下による関節可動域制限など、運動機能低下を引き起こす可能性がある。そのため、筋損傷部位の治癒促進を図る治療は重要であり、早期の運動機能回復につながると考えられる。低出力超音波療法(LIPUS)は、機械的刺激を生体に加え、創傷治癒促進を図る治療法である。筋再生に対するLIPUSの有効性は、筋横断面積や線維化の範囲など組織学的評価や筋張力評価により検討されているが、有効性について一致した見解が得られておらず、また詳細な作用機序は不明であった。これらのことから、我々は筋損傷に対するLIPUSの有効性を検証するため、動物を用いて筋損傷モデルを作成して検討した。損傷はカルジオトキシンを筋に直接注入して惹起した。対象動物はLIPUS照射の有無によって2群に分け、損傷後3, 5, 7, 14日に筋を採取し解析した。LIPUSは損傷後2時間に初回照射し、その後は24時間毎に照射した。本実験では、LIPUSの照射強度を複数設定したところ、先行研究よりも高く設定した条件下において、損傷後7日の筋横断面積が大きくなる傾向が認められた。一方、筋再生のマーカーとして筋分化因子の一つであるMyogeninの発現を損傷後3日で検討したが、LIPUS照射による発現量の変化は見られなかった。さらに作用機序解明のため、LIPUSが生体に与える機械的刺激において活性化されるシグナル伝達系に着目して、損傷3日、5日後の筋を解析したが、p70S6キナーゼの変化は認められたものの、Akt, mTORの変化は認められず、作用機序については明らかにできなかった。
|