研究課題/領域番号 |
18K10759
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
中島 剛 杏林大学, 医学部, 学内講師 (60435691)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 錐体路 / 運動機能再建 |
研究実績の概要 |
脳から脊髄への運動経路の再構築は、運動機能回復の重要な神経基盤となる。本研究は、その障害後、ヒト脊髄内に代替神経システムを再構築する、新たな神経リハビリテーション法を開発する。特に、代替経路の主役となりうる、脊髄介在ニューロン(IN)を介した運動経路を外部刺激等により強化し、障害脊髄を神経バイパスする運動機能回復法の確立を目指す。 本年度は、その基礎的研究として、運動麻痺患者においても遂行可能である随意運動の想起(イメージ)に着目し、イメージが頸髄IN系の興奮性を高めるのかについて、電気生理学的手法を用いて検証した。被験者は健常成人であり、刺激条件や上腕二頭筋からの筋電図の記録法(表面筋電図記録、運動単位記録)、随意収縮の有無が異なる6種類の実験に参加した。錐体路刺激(運動野への経頭蓋磁気刺激: TMS)と末梢神経刺激(尺骨神経への電気刺激: NERVE)を組み合わせて与える(CS、NERVEが10ミリ秒先行)と、2つの単独刺激による誘発筋電図の単純和より大きくなることが知られている(空間的促通)。これは、両刺激による入力が収束することにより、頸髄INの発火確率が上昇するためで、INが賦活化していると促通効果は更に大きくなる。被験者はこの刺激中に肘屈曲運動をイメージし、これによる促通量の変化を観察した。被験者が運動をイメージすると、イメージを行わないコントロールに比して空間的促通効果は増大した。この現象は、筋電図の記録法、随意収縮の有無、NERVEの強度(運動閾値の0.75と1倍)によらず観察された。運動単位記録の結果より、促通効果の増大は錐体路からの直接路には見られず、おそらくINの賦活化によるものと考えられた。今後は、この手法を用いて、障害脊髄をバイパスする代替経路として間接路を強化できれば、錐体路障害後の新たな神経リハビリテーション法として有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、脊髄障害後でも遂行可能なバイパス神経システムの脊髄可塑性誘導法の開発について、運動イメージに着目し、その基礎的データを収集した。その結果、脊髄損傷者や頚髄症患者へ応用できる方法論にまで完成した。あとは、来年度(3年計画の2年目)、当該方法論により、頸髄介在ニューロン系に可塑性誘導できることを確認し、最終年度(3年計画の3年目)において、これらの介入法がどのように運動機能回復に関わるのか、について検討する。よって、当初から計画していたペースで研究が進んでおり、おおむね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1. 当該研究において開発した脊髄賦活化法が、その刺激を繰り返すことによって、障害脊髄をバイパスする神経経路に可塑性誘導できるのか、2. さらに、どのようなタイプの運動回復に寄与するのか、という2点に焦点を絞り、研究を遂行する予定である。現在、これら計画に向けた準備等(施設面や連絡体制の強化など)を進めており、すぐにでも研究を遂行できる体制に整えつつある。よって、のこり2年間において当該研究をさらに推進できるようにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2019年度において計画している研究において、実験機材や実験補助に関わるパートタイマーへの賃金支払いの必要性が生じたため。
(使用計画)2018年度と2019年度の基金の一部を合算して物品購入および実験補助に対するパートタイマーへの賃金を捻出する予定である。
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