研究課題/領域番号 |
18K10766
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
土田 和可子 日本福祉大学, 健康科学部, 助教 (90610014)
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研究分担者 |
岩田 全広 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (60448264)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ステロイド / 温熱刺激 / アミノ酸栄養 / 骨格筋 / 筋萎縮 / タンパク質合成 / タンパク質分解 / 代謝異常 |
研究実績の概要 |
積極的な身体運動は、ステロイド療法の副作用の一つである骨格筋機能低下の治療や進行予防に有効であるが、臨床で遭遇する患者の中には、原疾患そのものの特異的な病態や合併症などによって運動制限を有する者も多く存在するため、その代償となる治療法の早期開発が求められている。これまでに我々は、熱刺激に対する筋細胞応答に着目し、筋細胞への加温が、ステロイド投与に伴うタンパク質の合成抑制・分解亢進に関わる細胞内シグナル伝達分子の活性化と筋萎縮を抑制することを明らかにしてきた。そこで、本研究課題では、熱という物理的刺激とアミノ酸栄養に対する筋細胞応答に着目し、温熱刺激またはホエイプロテイン投与がステロイドによる代謝異常とそれに伴う筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い、臨床応用に向けた科学的根拠を集積するとともに、温熱刺激とホエイプロテイン投与を組み合わせた治療介入が、タンパク質の合成能・分解能と代謝異常を相加的に改善することで、より効果的かつ効率的に筋萎縮の進行を抑制するのではないかといった仮説を検証することが目的である。 温熱刺激の効果を検証した実験では、ステロイド投与により萎縮が誘導される筋管細胞に温熱刺激を加えると、その萎縮進行が抑制されるとともに、タンパク質分解に関わる情報伝達経路の活性化が抑制されるだけでなく、タンパク質合成に関わる情報伝達経路の不活性化も抑制されることを明らかにした。アミノ酸栄養の効果を検証した実験では、筋管細胞にホエイプロテインを投与すると、タンパク質合成に関わる情報伝達経路が活性化され、タンパク質分解に関わる情報伝達経路は不活性化されるとともに、筋肥大が引き起こされることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、温熱刺激またはアミノ酸栄養がステロイド筋症の進行過程に及ぼす影響とその作用機序を解明するとともに、骨格筋加温とホエイプロテイン投与を組み合わせた新しい治療介入が、ステロイドにより引き起こされる代謝異常とそれに伴う筋萎縮の進行過程に及ぼす影響を検討する。さらに、その作用機序を解明することで、筋機能低下に対する治療や予防を目的とした効果的で効率的な治療法の開発に向けた基礎的資料を提供する。 2018年度においては、まず、培養骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)を用いて、温熱刺激によりステロイド投与に伴う筋管細胞の萎縮進行が抑制されるとともに、温熱刺激が萎縮進行抑制をもたらす作用機序のひとつとして、温熱刺激がステロイド投与によって生じるタンパク質合成に関わる情報伝達経路の不活性化とタンパク質分解に関わる情報伝達経路の活性化の両方を抑制することが関与している可能性を示した。また、ホエイプロテインの投与によりタンパク質合成に関わる情報伝達経路の活性化およびタンパク質分解に関わる情報伝達経路の不活性化と肥大を生じることを示した。 以上の検証は、培養細胞実験に基づくものであるが、これらの研究成果はステロイド投与に伴う骨格筋の機能低下に対する治療や予防を目的とした新たな治療戦略の開発につながる基礎的資料を提供することができるものと確信している。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に行った培養骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)を用いた実験では、温熱刺激によるステロイド投与に伴う筋萎縮抑制効果およびそれらの作用機序やホエイプロテイン投与による筋肥大効果について検討した。 今後は、これらの結果を基に、培養細胞を用いて追加実験を行い、温熱刺激とアミノ酸栄養がステロイド投与に伴う筋萎縮を抑制する詳細な作用機序を検討するとともに、温熱刺激とアミノ酸栄養を併用した治療介入が、タンパク質の合成能・分解能と代謝異常を相加的に改善できるかどうかを、組織病理学的、生化学的、分子生物学的指標を用いて検討していく予定である。また、培養細胞実験で得られた結果を基礎資料として、ステロイド筋症モデル動物を対象に用いて、温熱刺激、アミノ酸栄養、またはそれらの併用による治療介入を行い、ステロイド投与に伴う筋萎縮ならびに代謝異常の進行過程にどのように影響するのか、その効果検証を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度途中より産前産後の休暇の取得に伴い研究を中断したため、2018年度において未使用額が発生した。研究再開後は、培養骨格筋細胞と実験動物を用いるため、細胞培養や動物飼育などに必要な消耗品(培養容器・培地・試薬など)を購入する。また、各実験終了後には生化学的検索と分子生物学的検索を各種抗体や試薬、測定キットを用いて実施するため、これらの消耗品を購入する。その他、本研究課題に関する情報収集や成果発表を目的に国内外の関連学会への参加を予定しており、その旅費が必要となる。また、本研究課題に関する研究打ち合わせや研究成果の発表に伴い、謝金、会議費、印刷費、英文校閲料、投稿料などが必要となる。そのため、これらに研究費を充当する予定である。
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