通常,食事時の嚥下様式は咀嚼嚥下である.従来の研究から,咀嚼嚥下時,舌骨挙上開始時にすでに口腔期が開始されることから,嚥下の誘発に咽頭からの感覚入力を必ずしも必要とせず,咀嚼中の口腔感覚により引き起こされるのではと考えた.そこで本研究は,口腔感覚を麻痺させ,麻酔前後の咀嚼,嚥下運動および呼吸動態を解析することによって,咀嚼嚥下に及ぼす口腔感覚の影響を明らかにすることを目的とした.このことにより,リハビリテーションのための有益な指標が得られること,さらに,呼吸への関与が明らかとなれば,誤嚥治療ならびに予防に役立てる可能性がある. 被験者は,顎口腔系に異常を認めない正常有歯顎者10名とした.嚥下造影は,X線テレビシステムを用いて撮像を行った.鼻呼吸動態は,Pneumotach Systemを用い,Nasal Maskにて鼻呼吸流量の計測を行った.口腔感覚の麻痺には,経口表面麻酔剤と残存歯牙への局所麻酔にて行い,被験食品は,12g(コンビーフ8gにX線造影剤4g)を用いた.嚥下造影の画像と呼吸流量波形を同期させ,同時に記録した.記録した画像と波形は,パーソナルコンピュータに取り込み,解析ソフトを用いて分析した. その結果,口腔感覚の鈍麻により,口腔および咽頭上部位相時間に有意な延長を認めた.また,食塊先端の下顎下縁通過から舌の送り込み開始までの時間,および呼吸停止までの時間に有意な延長を認め,さらに舌骨挙上開始から呼吸停止までの時間,咀嚼停止から呼吸停止までの時間にも有意な延長を認め,嚥下時の呼吸停止が遅れることが示された. 以上のことから,咀嚼嚥下において口腔感覚は,嚥下運動の発現および呼吸停止を含む嚥下における初期の運動に影響を与えることが示唆された. 今現在,データの分析を行っている.分析し,考察を加えて,国内学会等で,発表し,論文制作する予定である.
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