研究実績の概要 |
自己ペースによる発話の脳の機能的結合モデルを作成するための仮説作成を目的とし、これまで行ってきた発話時の脳活動を計測するfMRI実験を追加で実施した。 fMRI実験により得られた吃音のある成人7名(男性4名、女性3名)(これ以降PWSとする)および吃音のない成人12名(男性9名、女性3名)(これ以降PNSとする)の2群のfMRIデータに対して2 sample t検定を実施した。このときField map補正を行い、静磁場の不均一に基づく歪みの影響を低減させた。また脳の白質および脳脊髄液の時間変動と体動補正のパラメータに基づく回帰子を統計モデルに含め、体動や心拍などに起因する生理学的ノイズの影響を低減させた。その結果、発話時に統計的に有意(cluster levelにおいてp<0.05, 多重比較補正あり)となる差異はみられなかったが、共通して有意に賦活する部位として、左右の体性感覚野、右の運動野、発話や聴覚に関連する領域(ローランド溝弁蓋、ヘッシェル回)が示された。また群ごとに1 sample t検定を行った結果、統計的に有意に賦活する部位として前述の部位以外にPNSでは左の運動野や発話・聴覚に関連する領域、補足運動野、小脳が示されたが、PWSでは有意となる部位はみられなかった。一方、有意に抑制される部位としてPNSでは左右の視覚野や紡錘状回、左の楔前部が示され、PWSでは左の中前頭回が示された。先行研究ではPNSに比べPWSの場合に左の発話・聴覚に関連する部位の活動が低いことが示されており、これらは今回の結果を支持している。 これらの解析結果に基づき、発話時に賦活および抑制に関して2群で共通して有意となる部位および異なる部位を起点とし脳の機能的結合性をモデル化し、PWSとPNSの発話運動に関する神経機構の差異を明らかにすることにより、新たな発話訓練方法の開発が期待できる。
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