研究課題
骨転移の治療の目的は病的骨折や麻痺を予防・治療してADLを改善することである。骨盤転移の頻度は四肢長管骨よりも高いため、骨折リスクを評価する指標が必要であるが、骨折事例が少ないこと、単純レントゲン像では検査の感度が低いこと、形状が複雑なこと、手術が容易に行える場所ではないこと、などが理由で、これまで骨盤転移による骨折リスクや手術適応の指標が存在していなかった。そこで、これらの問題点を解決する方法として、我々は有限要素法を用いることとした。有限要素法とは、骨のCT画像を元に、骨密度を持った3mm大の四面体要素(骨の表面は3mm大の三角形平板)から成る3次元の骨シミュレーションモデルを作成し、このモデルに対して仮想的に力を加えることで、立体構造の強度や骨折部位を予測する方法であり、共同研究者である別所がcadaverを用いた実験によってその精確性を証明している。平成30年度は、転移性骨盤腫瘍をもつ患者のCTデータをDICOMデータとして有限要素法解析ソフトに取り込み、健常側をもとに正常骨盤モデルを作成したが、臨床的に適切なモデルではないと判断し、平成31年度はさらに改良を加えた。作成したモデルは、骨盤を仙骨の正中で半分にし、片側の骨盤と仙骨の半分で構成した。仙腸関節と恥骨結合の靭帯成分を先行研究より引用した物質特性値で設定した。仙骨と恥骨結合は水平方向以外のすべての方向に、仙椎は垂直方向のみに拘束を行った。股関節の臼蓋に対する荷重方向は、立位での臼蓋への荷重を想定して、先行研究から、恥骨結合上縁と仙椎の上縁で構成する平面から30度傾けた角度に設定した。作成したモデルを用いて、有限要素法で応力解析を行った結果、一般的に脆弱性骨折で生じる骨折部(仙骨、恥骨上下枝)に骨折が生じたため、適切なモデルが作成できたと考えた。
3: やや遅れている
正常骨盤モデルの作成に難渋した。拘束条件、荷重条件を変えて、高エネルギー外傷ではなく脆弱性骨折と同様の骨折を生じる条件を模索し、モデルを完成した。このモデルをベースとした骨盤骨転移モデルの作成を開始しており、現在部位や大きさなどの条件を変えて、骨折リスクの解析を行っている。
本年度は、実際に正常骨盤に腫瘍を模した欠損(骨盤骨転移モデル)を作成し、どの部位やどのぐらいの欠損の大きさがあると骨折を生じやすくなるのかを検証する。さらに、実際の骨盤骨転移患者のCTデータを用いて、腫瘍の位置・大きさだけでなく、性状による強度の違いも検証する。転移性骨腫瘍は溶骨像や造骨像、これらの混合像を呈することがあるが、溶骨像は骨強度が弱く造骨像が強いと考えて良いのかを確認する。また、がん種による骨強度の違いに関しても検討する。これらのデータをもとに、位置や大きさ、腫瘍の種類や性状によるリスク因子の候補を挙げる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
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