研究課題
末梢神経損傷後の運動機能回復は,高齢になるにしたがい理想的な外科的治療が行われたとしても,十分な機能回復が得られない.これまでの末梢神経損傷の研究において,良好な運動機能回復にはアセチルコリン受容体凝集の維持が重要であることがわかっている.高齢者で神経損傷後の神経再支配が不良になる一因として,加齢に伴う後シナプス構造の変性が関与している可能性がある.高齢マウスでは成熟マウスに比べ,筋繊維内のアセチルコリン受容体凝集の変性,断片化が進んでおり,この変化は末梢神経損傷後に脱神経筋内におこる変化に近いものであった.これまでにWnt/βカテニンシグナル伝達経路が神経損傷後のAChRの分散に関与していることを報告してきた.本研究において,Wnt/βカテニンシグナル伝達経路に対するアンタゴニスト(IWR1)を投与し,神経筋共培養系において神経筋接合部の形成促進効果を確認した.また,総腓骨神経を切断した高齢マウスを用いて,脱神経2ヶ月後に脛骨神経を総腓骨神経に神経移行し,さらに2ヶ月後に前脛骨筋の組織学的検査・電気生理学的検査を行った.神経移行術後の神経再支配を確認するため,前脛骨筋の神経筋接合部の形態や神経再支配率を検討した.脱神経筋内にWntアンタゴシストを筋注することにより,神経修復後の神経再支配を改善できることがわかった.Wnt/βカテニンシグナル伝達経路を抑制するアンタゴニストを後シナプス構造の変化が顕著な高齢者の神経損傷治療に用いることで,神経損傷後のAChR凝集のさらなる断片化を防ぎ,神経修復後の運動機能回復を改善できる可能性が示された.薬理学的なアプローチは外科的治療成績がプラトーに達した末梢神経損傷治療のブレークスルーとなり,神経損傷に対する外科的治療を補完する新しい治療法を確立する重要な成果である.
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