人工膝関節全置換術(TKA)は優れた治療法であるが、術後のリハビリテーションに伴う疼痛は大きな問題である。運動療法は全身の痛覚閾値を低下させる事が知られており、本機序をTKA後の関節可動域(Range of motion:ROM)訓練時の疼痛軽減に応用させることにより、よりスムーズにリハビリテーションを実施できる可能性がある。 片側TKA施行予定の患者をブロックランダム化により持続他動運動装置(continuous passive motion:CPM)を患側のみに行う片側群と患側・健側両方に行う両側群に分け比較を行った。 術後日数の経過とともに両群ともVASは低下しており、2群間に有意差は認めなかった。それぞれの群のCPM前後での比較でも、それぞれ可動域は上昇し有意差は認めなかった。CPM前後での差の比較では、両側群ではCPM後に疼痛は軽減していたが、片側群ではCPM後に疼痛が上昇しており、術後14日目には有意差を認めた。膝関節可動域は術後日数の経過とともに両群とも上昇を認め、2群間に有意差は認めなかった。それぞれの群のCPM前後での比較でもそれぞれ可動域は上昇し、有意差は認めなかった。CPM前後での差の比較では、両側群でより大きな改善を認め、術後2日目、7日目で有意差を認めた。 以上の結果から、片側TKA術後のリハビリ時において、健側にもCPMを行う事で下行性痛覚抑制系が賦活化され運動時の疼痛が軽減される可能性が示された。CPM後の膝関節可動域には両群間での差は認めなかったが、CPM前後での可動域のより大きな改善を認め、疼痛少なくリハビリテーションを行う事ができた。本研究結果を基に、下行性痛覚抑制系の賦活化を応用した新しいリハビリテーション方法の構築が期待される。
|