前年度までに明らかにした「持続的収縮負荷を受けた骨格筋抽出液中に含まれるサテライト細胞の活性を高める因子」の有効成分を化学的に分画するために、抽出液を分子量3万のフィルターにより分離し、それぞれの分画のサテライト細胞に対する促進効果を比較した。分子量3万以上の分画では、分画前のものに対して増殖効果が大きい傾向がみられた(p<0.06)。そこでこの液に含まれる可能性のある候補物質の一つとなるHGF(肝細胞増殖因子)に対する抗体を用いてウェスタンブロッティング解析を行ったが、結果は陰性であった。異なる増殖カスケード系にターゲットを定めた解析が必要と考えられた。 更に、外眼筋の萎縮耐性についての知見を構造的側面から検討した。外眼筋は眼窩層と眼球層にわかれているが、それらはミオシンタイプが異なることが報告されており、しかもそれぞれの層の中でも、神経筋接合部付近と筋腱移行部でミオシンタイプが異なることが知られているため、まず、眼窩層と眼球層を注意深く分離し、それぞれのミオシン成分をグリセロール電気泳動により解析した。その結果、眼窩層では新生筋線維で発現する胎児型筋線維の発現が有意に多いことが示された。胎児型筋線維は、筋線維が新生される際に一過性に発現することがわかっているので、眼窩層に胎児型筋線維が多いことは、外眼筋では眼窩層で常に新しい筋線維が生み出されている可能性を示唆するものと考えた。pax7の免疫染色により眼窩層と眼球層でのサテライト細胞の密度を観察したところ、眼窩層では密度が多い傾向が認められた。ただしこの結果は筋線維が細いことを加味して、較正する必要があると思われる。最後に、眼窩層と眼球層の筋線維の構造的特徴をX線回折法にて観察したところ、両者に大きな違いはなく、眼窩層の筋線維も眼球層のものや四肢体幹の横紋筋と同等の筋線維構築を持つことが確かめられた。
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