骨格筋萎縮の予防・回復は健康寿命を延伸すると考えられている。筋萎縮対策の代表は運動であるが、運動困難者向けの新たな対策が望まれる。骨格筋は乳酸を分泌する一方で、骨格筋には乳酸受容体が存在する。しかしながら、骨格筋への乳酸の影響には不明な点が多い。 本研究では、乳酸による骨格筋萎縮の予防・回復効果ならびにメカニズムを明らかにするために、乳酸刺激の筋萎縮予防への影響、乳酸刺激の筋萎縮回復への影響、乳酸刺激の乳酸受容体シグナルへの影響を検討する。 本研究は3年計画で実施され、2020年度はその3年目の最終年度に当たる。本年度の検討項目は、乳酸刺激の乳酸受容体シグナルへの影響とした。実験対象には、実験動物(マウス)および培養骨格筋細胞を用いた。乳酸の筋増量効果における乳酸受容体の役割を調べるために、乳酸受容体アゴニストの骨格筋への影響を調べた。マウスへの乳酸受容体アゴニストの経口投与は、骨格筋重量を増加させた。また、培養筋細胞への乳酸受容体アゴニストの投与により、筋管細胞直径とタンパク質量が増加したことから、乳酸による筋量増加のメカニズムとして、乳酸受容体の関与が示唆された。しかし、乳酸刺激後の乳酸受容体の下流シグナルの応答をwestern blot法を用いて解析したところ、乳酸受容体の下流シグナルの一つであるErk1/2シグナルは、乳酸投与後のマウスの骨格筋と培養骨格筋細胞において異なる応答を示した。一方、マウスへの乳酸ナトリウムの経口投与は、足底筋の萎縮からの回復を促進させ、タンパク質分解に作用する細胞内シグナル伝達物質のリン酸化レベルを低下させたが、ヒラメ筋では認められなかった。以上より、乳酸受容体刺激は骨格筋増量が引き起こすことが示唆された。この現象の詳細なメカニズムが今後の課題である。
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