日本における統合失調症の治療は、精神症状に対する薬物療法が第一選択肢とされており、生活機能の基盤となる身体への医学的対応については関心が低く、身体への治療的介入を含めた適正な保健医療サービスおよび地域生活移行への取り組みが十分になされていない。これらの背景には、精神疾患である統合失調症の治療に身体的治療を取り入れる理論的背景、あるいはその具体的治療法が日本国内では十分に確立していないことがあげられる。申請者らのこれまでの研究では、統合失調症に対する運動療法が自己主体感を含む心身症状の改善に寄与することを明らかにした。本研究課題では、統合失調症者に対する運動療法が病院内の治療プログラムにとどまるのではなく、生活機能の改善に向けた身体活動増進に焦点をあて、統合失調症者に対する運動療法が早期退院および地域生活への移行を含む包括的リハビリテーションに寄与するかどうかについて明らかにすることを目的とした。 本年度は、これまでの研究成果を単なる文献検討だけでなく、臨床施設における研究データと研究実施における治療者側からの立場を整理し、どのような場面でどのような対象者へ何がどのくらい必要かという治療の質的な側面も同時に検討した。その結果、臨床における治療のあり方とは別に、診療報酬など制度によって対象者の入院後の生活が決定づけられるという結果が得られた。このような背景から、精神科リハビリテーションの包括的アプローチには、制度の転換や診療報酬のあり方など、治療を支える背景について、また地域生活のあり方についてより大きな転換が必要であると考えられる。
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