研究課題
本研究は、心臓・大血管リハビリテーション(心臓リハビリ)における心肺運動負荷検査(CPX)を用いた、心血管疾患の予後を予測する研究である。 研究初年度である2018年度は、心臓・大血管疾患においても急増している高齢者に着目し、65歳以上の心臓リハビリ通院中患者131名の最大6年間の後ろ向き観察研究において、心機能向上と加齢に伴う腎機能の低下速度を抑制することを報告した。血中脳中利尿ペプチド(BNP)、心臓超音波での左室収縮能(LVEF)は 改善傾向、CPX によって測定された運動耐容能は開始2年まで改善、その後緩徐に低下し、腎機能を示す推定糸球体濾過量(eGFR)も低下傾向にあった。慢性心臓病(CKD) 患者では運動耐容能は上昇傾向で、eGFRは年齢を考慮しても軽微な低下に留まっていた。 研究期間2年次である2019年度は、心臓リハビリによる短期的効果を検証するため、心不全患者30名について、CPX前、及びCPX施行の際に判定された嫌気性代 謝閾値(AT)時点での血液検体採取を行っている。CPX前とAT時の血液中の白血球、特にリンパ球の数が増加し、炎症性サイトカインのうちミオカインではIL-6 が上昇していた。短時間の運動によってミオカインの変化が認められることが示唆された。 研究期間3-4年次である2020-2021年度は、心臓リハビリによる抗動脈硬化作用を基礎分野から証明するため、動脈硬化モデルマウスであるアポリポ蛋白E(ApoE)欠損 マウスを用いて、動物実験を行った。血液中のサイトカインIL-6は運動群で低下し、非運動群で上昇、また大動脈における動脈硬化の面積率は、運動群で37%、 非運動群で51%と運動群の動脈硬化面積は低値であった。マウスにおいて運動療法は、体重増加や炎症性サイトカインを抑制し、HDL機能の抗炎症採用により動脈 硬化を減少させることが示唆された。
4: 遅れている
これまでの研究において保管しているヒトやマウスの血漿検体を用いて、HDL機能の一つであるコレステロール引き抜き能の確認を予定しているが、マクロ ファージ細胞での引き抜き数値が安定できていなかった。そのためマクロファージ細胞種を変更しており、遅れが出ている。
臨床研究では、引き続き心血管疾患患者における心臓リハビリによる予後を解明するため、さらに期間を追い、臨床検査値のほか、コレステロール引き抜き能 や抗酸化ストレス能、ミオカインなどのサイトカインを指標にして評価を継続していく。 基礎実験においては、ApoE欠損マウスでの運動療法に関する実験を継続する。これまでに得られた検体を用いて、血清脂質と抗酸化ストレス作用、コレステ ロール引き抜き能などHDL機能、及び大動脈の動脈硬化量、肝臓脂肪量、骨格筋繊維などが変化するかを確認する予定である。
2021年度は調達方法の工夫により、当初計画より経費の節減を図ることができ、次年度使用額が生じることになった。2022年度には、これまでの研究で得られた検体試料を用いて、コレステロール引き抜き能や動脈硬化計測のため使用する計画である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Clinical Medicine
巻: 10 ページ: 3306
10.3390/jcm10153306
臨牀と研究
巻: 98 ページ: 82-85