我々は、脳梗塞後のリハビリ訓練中に所望の動作を引き起こそうとする筋肉の力に逆らうように外力を加えることによって、学習過程及びリハビリ過程の促進効果が現れると考えている。これまでに健常ラット及び片側前肢感覚運動野脳梗塞ラットを用いて選択反応時間タスクの逆転学習を行わせる際、選択刺激呈示の一定時間後の応答時刻付近のタイミングで正応答動作に逆らうような誤応答動作を強制的に誘発することによって学習過程を促進させうることを実証した。本研究では、同様の条件下で、応答動作に同期して正応答動作及び誤応答動作を強制的に誘発することによって学習過程を促進あるいは遅延させうることを実証し、運動企図の発現するタイミングに合わせて運動感覚を誘発することで、脳損傷後の回復メカニズムと考えられる神経可塑性が促進されうるメカニズムを明らかにする。 令和2年度は、片側前肢感覚運動野脳梗塞ラットに選択反応時間タスクの逆転学習を行わせ、応答動作のタイミングに同期して正反応側あるいは誤反応側レバーを駆動して正応答動作あるいは誤応答動作を強制的に引き起こすことによる効果を明らかにするための行動実験データを収集完了した。また、例数は1例と少ないが、モーションキャプチャによる動作計測と大脳皮質硬膜外電位計測を同時に行い、タスク中の空圧刺激や応答動作などの各種イベントに関連した誘発電位を計測可能とした。特に、対側前肢感覚運動野付近において観測された誘発電位はレバー駆動によってラットに加えられる外力の大きさに応じて大きくなっていた。得られた知見は、ロボティックリハビリテーションによる介入が中枢神経系での神経活動に影響を及ぼすことを示唆している。今後、行動実験データと合わせて解析し、ロボティックリハビリテーションの作用メカニズムの解明に取り組む。
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