研究課題/領域番号 |
18K10814
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
花井 淑晃 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50360730)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 筋肥大 / 成長ホルモン / GH / 成長ホルモン受容体 / IGF-1 |
研究実績の概要 |
本年度については、我々が以前に明らかにしてきた、ラットの代償性肥大時の骨格筋におけるGH受容体の発現レベルの減少が、代償性肥大処置時に肥大筋組織に生じると推察される筋活動の増加によるものなのか。それとも他の要因によるものなのかを検討するために、電気刺激による急性の筋活動後の骨格筋におけるGH受容体およびIGF-1のmRNAレベルの発現の変化について検討を行った。 急性の電気刺激処置は共同研究の小笠原ら(小笠原ら, 2014)による、麻酔科での電気刺激による片脚の腓腹筋の急性筋収縮モデルで、その繰り返しにより刺激筋では筋肥大が生じることが確立されている。刺激プロトコルは、右足の腓腹筋に対して、経皮で7秒ごとに3秒間の電気刺激(30V、100Hz)を10回与えることを1セットとし、これを3分の休憩をはさんで5セット行うというものであった。急性の電気刺激の直後、および6時間後にサンプリングを行い、遺伝子発現の変化を検討した。反対側(左脚)をコントロール 脚とした。時間の異なるグループ(0時間、6時間)それぞれは独立した検討とし、有意差検定は各時間グループごとの左右脚間での対応のあるt検定により行い、有意水準は0.05%とした。 急性の筋収縮刺激直後のグループ、および、刺激後、6時間後のグループのいずれにおいても、GH受容体、およびIGF-1受容体のmRNA発現レベルは、刺激筋と対照筋とで有意な差は認められなかった。すなわち、急性の強度の筋活動ではGH受容体およびIGF-1のmRNA発現は調節されない可能性が示唆された。 この結果は、われわれが以前の研究で明らかにした代償性肥大時の骨格筋における筋肥大初期のGH受容体レベルの低下が、代償性肥大時に筋で生じる筋活動の増加によるものではないことを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究課題の進捗状況の自己評価として、「やや遅れている」とした。本研究課題に関する実験のうち、2019年度中の実験の実施を予定していた「電気刺激による急性の筋活動モデルによるGH受容体の遺伝子発現の急性の調整の可能性の検討」、および、「下垂体摘除ラットの片脚代償性肥大モデルにおけるGH投与時の肥大筋のIGF-1反応」の2つの実験のうち、前者の急性刺激実験については実施することができ、急性の筋収縮刺激ではGH受容体のmRNA発現レベルは影響されないという有用な知見を得ることができた。しかしながら、この急性の筋収縮実験については負荷強度が1パターンのみであり、収縮強度の影響については不明となっている。また、刺激後のタイムコースにおいても6時間後の1点のみであることから、その前後の変化については不明である。ゆえに、「負荷強度」と「負荷後の時間経過」については、いくつか追加の検討を行う必要があるかもしれない。 後者のGH投与実験については今年度については実施することができなかった。来年度以降に実施し、代償性肥大時の骨格筋におけるGH受容体発現の低下が実際にGH投与時のIGF-1の発現誘導に影響を与えるか確認をし、新しい知見を得たいと考えている。課題であった筋肥大モデルにおける肥大率の改善については、腓腹筋の腱切除処置において、これまで我々が実施してきた処置よりも、少し多くの筋組織を腱組織の切除とともに切除することにより、被験筋の肥大率が改善される可能性があることが共同研究者よりアドバイスを得られたことから、より確実な肥大率のもとに検討を実施できる可能性が出てきた。解析手法その他については実施の上で特に問題点はないので、実施できる環境が整い次第、実験を実施したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の実施計画については最終年度にあたるため、昨年度実施することができなかった、本研究のメインの実験である、下垂体摘除ラットの片脚代償性肥大モデルにおけるGH投与時の肥大筋のIGF-1反応について検討し、筋肥大時のGH受容体の発現レベルの低下がIGF-1反応に対して影響を与えるか否かについての知見を得たいと考えている。 実験は下垂体摘除済みのラットを購入し、予備飼育の後に片脚の腓腹筋下部を切除して足底筋とヒラメ筋に代償性肥大を生じさせ、処置4日後、GH受容体の発現レベルが低下していると考えられるタイミングでGHを投与し、その7時間後(GH投与後に骨格筋でのIGF-1mRNAの発現誘導が最大となるタイミング)にサンプリングして筋組織におけるIGF-1mRNAの発現レベルの変化を対照筋(反対側の筋)と比較するものである。骨格筋におけるGHの受容体は発現レベルが低く、その筋の成長への関与については多くの知見が得られていないが、本研究でGH受容体の発現量の変化により、血中GH濃度に強い依存性をもつとされるIGF-1の発現量が影響されることがあきらかとなれば、骨格筋のGH受容体の新たな役割を位置づける知見として重要なものとなると考えられる。 しかしながら、この報告書を作成している5月現在、大学組織はコロナウイルス対策として研究活動が制限されており、6月以降についてもある程度の制限がつづく予定となっている。研究室所属の学生の研究活動もオンラインでのゼミのみにとどまっており、動物実験のトレーニングはまったく進んでいない。投与実験は単独で実施することが難しいため、この状況がある程度緩和されないと実施すること自体が難しい可能性がある。その場合は研究期間を来年度に繰り越して実験を来年度実施することも視野にいれる必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画していた動物実験を1件、実施することができず、そのための実験の実施に使用する予算(動物代、管理費等)、サンプルの分析の予算、および学会発表のための予算額が執行できなかったことから繰り越しとなった。繰り越しとなった分については、今年度予定の実験の実施、およびサンプルの分析、成果の公表で執行する予定であり、さらに余剰があった場合には分析対照とするmRNAを増やすことや、関与すると考えられるシグナル経路の分析に使用する予定である。また、急性の筋収縮実験については、収縮強度とタイムコースのさらなる検討の必要の可能性も残されており、必要と判断した場合には急性の筋収縮後のGH受容体の変化について、収縮強度、およびサンプリングのタイミングを24時間程度まで延長したプロトコルの追加実験についても実施する可能性がある。 しかしながら、今年度は現在、この報告書を作成している5月の段階でコロナウイルスの影響で研究活動がほとんど実施できない状況に制限されており、今後もしばらくこの状況が続くおそれがある。研究室所属の学生の活動もオンラインのゼミのみとなっており、動物実験のトレーニングはまったくできていない状況である。今後の研究活動の再開以降の状況によっては、今年度の実施も難しい可能性も出てくるため、来年度へのさらなる延長も視野にいれて進めていく予定である。
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