研究実績の概要 |
分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ (MAPK) とはセリン/スレオニンキナーゼの一つであり、様々な刺激(酸化ストレス、サイトカインなど)を受けて活性化(リン酸化)される。全身の細胞に広く発現しており、細胞質や核内のタンパク質をリン酸化し、細胞の増殖や分化を制御している。
骨格筋では、筋線維のタイプ発現に関与することが知られており、我々の研究室では、ラット下肢骨格筋を用いて免疫蛍光組織分析、およびSDS-電気泳動法によるタンパク質発現量の分析結果より、リン酸化ERK1/2MAPKが骨格筋の速筋線維の発現と密接に関与することを報告している(Oishi et al. Pflugers Arch, 2019)。同様に、安静時ラット骨格筋を用いて、p38MAPKと筋線維タイプの関連について検討した結果、リン酸化p38MAPKは速筋線維が多く含まれる足底筋および腓腹筋表層部において多量に発現し、逆に速筋線維の割合の低いヒラメ筋で発現量が少ない知見を得た。その一方で、p38MAPKの総発現量には骨格筋間の差は認められなかった。これらの知見により、リン酸化p38MAPKがリン酸化ERK1/2と同様に速筋線維の発現に関与する可能性を持つことが推測された。
さらに、8週齢のラットに熱ストレス負荷実験(無麻酔でラットの下肢を42℃のお湯に20分間浸す。2日に1回、計3回)を施し、足底筋において熱ストレスの影響を検討したところ、リン酸化ERK1/2MAPKおよびリン酸化p38MAPKともに発現量の有意な増加が認められ、リン酸化APKが熱ストレス応答性のタンパク質であることが明らかとなった。しかしながら、その生理的意義に関しては全く不明であり、今後の検討課題である。
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