研究実績の概要 |
本研究は、単発的な運動がどのような種類の認知機能の改善に有効かについて検証することを目的としている。運動による気分改善効果をうつ病など心の病の「予防」のために利用していくには、まず、単発的な運動の効果を明確にしていくことが必須であると考え、2018年度は、①視覚探索機能を評価するd2テスト、②競合する反応行動を抑制し(反応抑制)、適切な行動を選択するフランカー課題、および③より高次なレベルでの反応抑制力が求められるストループ課題を用いて、事前に行う短時間中強度の自転車運動による認知機能への影響を検証した。 その結果、d2テストでは、エラー率に安静条件と運動条件間に有意差は無かったものの、解答数が運動条件でのみ有意に増加した (運動前627 vs. 運動後669問, p < 0.01)。フランカー課題においては、認知的干渉量が運動条件でのみ有意に減少した (運動前50.4 vs. 運動後37.6 ms, p < 0.05)。ストループ課題においては、ストループ干渉量に運動の効果は認められなかったが、運動条件では、反応時間が不一致試行のみで運動後に有意に短縮した (運動前696.6 vs. 運動後640.2 ms, p < 0.05)。また、全ての課題において、覚醒度の間接的指標となり得る心拍数は、運動条件でのみ運動後のテスト中に有意に高値であった (運動前のテスト中 vs. 運動後のテスト中, d2テスト:77 vs. 82 bpm , フランカー課題:75 vs. 82 bpm , ストループ課題:72 vs. 79 bpm , いずれもp < 0.01)。 これらの結果から、運動による覚醒レベルの上昇が運動終了後のテスト中も維持されることにより、注意力が高まったもしくは注意を向ける範囲が広がったことで、標的を素早く見いだす、あるいは不必要な情報に惑わされず適切な選択をするといった能力が向上したことが示唆された。
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