本研究では、昨年度までに、短時間中強度運動として自転車運動を用い、①視覚探索機能を評価するd2テスト、②競合する反応行動を抑制し(反応抑制)、適切な行動を選択するフランカー課題、③より高次なレベルでの反応抑制力が求められるストループ課題、および④情報の短期的保持とそれを逐次更新する能力を評価する2-back課題のパフォーマンスに与える影響を検証してきた。その結果、d2テストの解答数増加、フランカー課題における認知的干渉量の減少、およびストループ課題における高難度試行での反応時間の短縮の効果が認められた。しかしながら、2-back課題のパフォーマンスについては事前運動の影響が認められなかった。上記①-③の課題は、視覚刺激提示に対して瞬時の判断が求められる。一方、④の2-back課題は、瞬時の判断も求められるが、短期的な記憶の保持とその更新能力が要求される。そこで本年度は、事前に行う運動に、その後に実施する認知機能課題と類似の特性を持つ認知的作業を組み合わせると(二重課題運動)、運動の事前実施の効果が増すと考え、足踏み運動、および足踏みしながらの「2個前しりとり」が、2-back課題のパフォーマンスに与える影響を検証した。 その結果、運動なし条件を含めた3つの条件いずれにおいても2-back課題の正解率に変化は見られなかった。しかし回答までの反応時間の変化量は、運動なしで+17.3 ms、足踏みで-37.8 ms、二重課題運動で-21.2 msと二種の運動条件では運動なし条件に比べて有意に短縮していた(いずれもp < 0.05)。二種の運動条件での、腕振りの大きさともも上げの高さを比較すると、いずれも二重課題で小さくなっていた。おそらく「しりとり」が干渉して運動サイズが小さくなっていたと考えられる。二重課題運動の効果については、今後運動サイズを規定し知見を蓄積していく必要がある。
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