研究実績の概要 |
我々は30年にわたり、細胞膜損傷修復によって物質が細胞内と細胞外を行き来する現象を観察し報告してきた。この膜損傷修復は生理的な条件下で様々な細胞で起こっていることも明らかにしてきた。さらに、高感度GaAsP搭載型多光子レーザー顕微鏡によるLIVEイメージングを行い、膜修復動態をリアルタイムの分子の動きで明らかにしつつある。本研究では、多光子高速スキャンレーザー顕微鏡(LSM880, Aryscan, 2-photon)を用い、運動による筋線維膜損傷修復とマイオカインの分泌過程を顕微鏡下に再現し、筋線維からのマイオカインの多様な分泌現象を、高速・高解像レベルで明らかにすることを目的としている。さらに、急速凍結法とディープエッチ電顕法により細胞損傷・修復時におこる膜融合による修復過程を超微形態的に明らかにする。 我々はマイオカインの候補として、これまで線維芽細胞成長因子(FGF)について調べて来た。とくにaFGFとbFGFは細胞質内に可溶性タンパク質として存在し細胞膜損傷時に筋線維から分泌されることを明らかにした。しかしながら、小胞に存在しない細胞質に存在するタンパク質の分泌形式は全く不明である。FGFが細胞外小胞(エクソゾーム)に梱包されて分泌されるのか、それとも損傷部から可溶性タンパクのまま漏出分泌されるのか、Aryscanを用いて超解像レベルのLIVEイメージングによって損傷時に分泌される瞬間を追っている。また、組織液や血流に乗ってどのようにターゲットの細胞へ運ばれるのか膜損傷によって分泌されたマイオカインの生体内の動きに迫りたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞膜損傷修復後に起こるエキソサイトーシスにより供給された修復膜がどのように変化するのか詳しく追跡した。膜修復のため供給された膜によってエクトゾームまたはエクソゾームを形成し、細胞質内の物質を細胞外へ分泌する現象を捉えることに成功した。培養細胞(BS-C-1, NIH3T3, C2C12, MKN45, MKN28, BRMEなど)を用い、シリンジローディングなど様々な損傷法によって培養細胞の細胞膜を損傷し、細胞外小胞形成過程を形態学的に観察した。また、金コロイド(10nm)処理を行ったquantifoil UltrAuFoil Holey Gold支持膜付き金グリッド上に培養細胞を滴下培養し、金グリッドをディッシュから引き剥がした直後にプランジャー(Leica)によって液体エタンへ凍結固定を行ない、クライオ電子顕微鏡(CRYO-ARM TM300, JEMZ300FSC, JOEL)にてトモグラフィー画像(厚さ12nm、日本電子提供)を得て形態学的に観察を行なった。また、LIVEイメージングによって、二光子レーザーによる損傷直後にナノサイズの細胞外小胞の離出が数多く観察された。クライオ電子顕微鏡観察では、損傷細胞から発芽様に突出または離出したエクトゾームが観察され、その内部にリボゾームや、様々なタンパク質と思われる構造物が高解像度で観察された。さらに Cal520によるカルシウムイメージングを用い、細胞膜損傷による細胞外シグナル伝達をとらえることに成功した。膜損傷時に分泌されるマイトカインとしてFGF1(aFGF)に注目し、損傷時のFGF1の細胞外への分泌を確認した。また、損傷時の小胞体から損傷膜への膜供給可視化に成功した。さらに、筋線維の修復ではRab23とRab34が膜損傷部に集まることを明らかにし、カルモジュリンが膜損傷部に集積することも確認できた。
|