研究課題/領域番号 |
18K10824
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
櫻井 拓也 杏林大学, 医学部, 講師 (20353477)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 褐色脂肪組織 / ブラウンアディポカイン / 肥満 / 運動トレーニング |
研究実績の概要 |
熱産生を行う褐色脂肪組織(brown adipose tissue: BAT)は、肥満・生活習慣病の予防・改善のキーとなる臓器として非常に注目されている。しかし、BATから分泌される液性因子(ブラウンアディポカイン)については肥満や運動による影響がほとんどわかっていない。本研究では、このブラウンアディポカインにスポットをあて、運動や肥満による影響を検討している。これまでの検討から、脂肪含量60%の高脂肪食を4ヵ月間摂取させた肥満マウスのBATでは、対照群に比べて、ブラウンアディポカインと予想されるgalrctin-3 (Lgals3), galectin-3-binding protein(Lgals3bp)やmatrix metallopeptidase 12(MMP12)などの液性因子の遺伝子発現が増加していること、自発運動走による運動トレーニング(TR)は肥満によるBATでのLgals3やLgals3bpの発現増加を有意に減弱させることが明らかになった。2019年度はこれらの結果をもとに以下の検討を行った。 1.BATおける肥満および運動による遺伝子発現変化の網羅的解析 DNAアレイを用いて、肥満や運動によるBATの遺伝子発現変化の網羅的解析をさらに進めた。その結果、EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 1(Efemp1)遺伝子の発現が、肥満では変化しなかったが、肥満とTRを組み合わせて施行したマウスで低下することがわかった。さらに、質量分析装置を用いた解析から、マウスHB2褐色脂肪細胞からEfemp1が分泌されること、HB2細胞にノルエピネフリンを作用させるとEfemp1の分泌が増加することが明らかになった。 2.褐色脂肪細胞の脱共役タンパク質1(UCP1)発現に対するLgals3とLgals3bpの影響 リコンビナントLgals3とLgals3bpタンパク質を合成し、HB2褐色脂肪細胞に添加した場合のUCP1遺伝子の発現変化を検討した。HB2細胞ではノルエピネフリンの刺激によってUCP1遺伝子の発現が大きく増加したが、この発現増加にLgals3とLgals3bpの影響は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の検討から、4ヵ月の高脂肪食を摂取させて肥満させたマウスのBATではLgals3やLgals3bpをはじめとする様々な液性因子の遺伝子発現が変化すること確認された。この結果とHB2褐色脂肪細胞と質量分析装置を用いた検討から、Lgals3, Lgals3bpならびにMMP12などが褐色脂肪細胞から分泌されるブラウンアディポカインの候補として同定された。さらに、TRは肥満によるBATのLgals3とLgals3bp発現増加を減弱することを明らかにした。2019年度は、更なるブラウンアディポカインの検索と褐色脂肪細胞に対するLgals3やLgals3bpの作用を中心に検討した。Lgals3とLgals3bpのリコンビナントタンパク質を作製して検討したところ、褐色脂肪細胞のUCP1遺伝子発現にこれらのタンパク質は影響しなかった。したがって、今後は、これらタンパク質の褐色脂肪細胞のミトコンドリア機能への影響など別の観点からの検討が必要である。一方、新たなブラウンアディポカインとして、Efemp1がみつかった。Efemp1は褐色脂肪細胞に対する作用がほとんどわかってないため非常に興味深く、今後更なる検討を進めていく予定である。これらの結果は、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成に有用な知見であることから研究の達成度はおおむね順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ブラウンアディポカインと細胞内分子の機能解析:同定されたブラウンアディポカイン(Lgals3, Lgals3bpやEfemp1など)がどのような機能を持つか検討する。具体的には、同定されたブラウンアディポカインのリコンビナントタンパク質を合成し、予想されるブラウンアディポカインのターゲット細胞(褐色もしくは白色脂肪細胞や肝細胞など)に添加し、細胞の形態変化や遺伝子ならびにタンパク質発現の変化をそれぞれDNAアレイと質量分析装置を用いて解析する。得られた遺伝子およびタンパク質発現の変化からブラウンアディポカインのターゲット細胞に対する作用を解明する。 (2)ブラウンアディポカインと細胞内分子のシグナル伝達経路の同定:同定されたブラウンアディポカインや細胞内分子の機能を発揮するシグナル伝達経路を同定する。Two Hybrid法によりブラウンアディポカインの受容体や細胞内分子と相互作用を示す分子を探索し、シグナル伝達因子の活性化をリアルタイムPCRやWestern blot法などで解析する。これらに加えて、同定されたブラウンアディポカインと細胞内分子の相互作用についても検討する。 (3) in vivoにおける解析と新しい運動効果の探索:上記の実験で得られたブラウンアディポカインならびに細胞内分子の作用とそれを発揮するシグナル伝達経路の活性化が実際にin vivoで起こっているか検討を行う。肥満や運動群の中でBATにおけるブラウンアディポカインの発現変化が大きく変動した条件を用いて、上記のin vitroの検討で得られた結果がみられるかを観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
割引などのために消耗品にかかる費用が当初の予想よりも若干低かった。 新たに他の消耗品のために使用する。
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