研究実績の概要 |
熱産生を行う褐色脂肪組織(brown adipose tissue: BAT)は、新生児期においてのみ存在すると考えられてきたが、近年、成人においてもその存在が認められ、肥満・生活習慣病の予防・改善のキーとなる臓器として非常に注目されている。しかし、BATから分泌される液性因子(ブラウンアディポカイン)については報告が少なく、運動による影響もほとんどわかっていない。本研究では、このブラウンアディポカインに焦点をあて、運動トレーニング(TR)や肥満による影響を検討することを目的に検討を行った。HB2褐色脂肪細胞から分泌される液性因子について質量分析装置を用いて網羅的解析を行った結果、HB2褐色脂肪細胞から分泌されることが確認されたC-C motif chemokine 9, Lgals3 (galectin-3)やLgals3 binding protein(Lgals3bp)タンパク質の遺伝子発現が、4ヵ月の高脂肪食を摂取させて肥満させたマウスのBATで大きく上昇し、TRはそれらの発現増加を有意に減弱させることがわかった。さらに、肥満マウスのBATではperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1αなどの褐色脂肪細胞分化関連因子の発現低下も観察されたが、TRはそれらの発現低下を抑制した。一方、HB2細胞にLgals3を過剰発現させるとコントロール細胞よりも脂肪合成が高まり、Lgals3bpを過剰発現されるとミトコンドリア量が減少した。以上のことから、TRは肥満によるブラウンアディポカインの発現異常を減弱することが明らかになり、Lgals3とLgals3bpは褐色脂肪細胞の分化に関わることが推測された。
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