研究課題/領域番号 |
18K10830
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
柳田 信也 東京理科大学, 理工学部教養, 准教授 (80461755)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 身体活動量 / 集団飼育 / 豊かな環境 / 埋め込み型活動量計 |
研究実績の概要 |
本研究では、ラットの集団飼育環境における自発運動量が健康増進をもたらす脳神経機能、特に神経内分泌系機能に及ぼす影響を解明することを目的とした。そして、マイクロチップや装着型加速度計を用いた個体識別技術による自発運動量の管理とその効果の定量化を実現し、既往研究の方法論的制約を解消することを目指した。その目標達成に向けて、本年度は以下の計画で実験的検討を実施し、いくつかの顕著な研究成果を得ることができた。 【マイクロチップを用いた複数個体の運動量の統制と管理方法の検討】 ①マイクロチップを用いた個体識別システムの精確性の評価 ②適切な飼育匹数やケージ内における様々な行動の評価(赤外線による動画解析)(今年度の進捗)1ケージあたり3匹の個体を同時に飼育しても精巧に運動量を計測することができるオリジナルRFIDシステムの構築に成功した。特に、集団飼育条件において、個体ごとの自発運動量のバラつきが個別飼育に比べ、非常に小さくなることを発見し、運動量の増加を示さないラットも本研究の実験条件を利用することで、その運動量が平均化されることが示唆された。 【マイクロチップ装着が行動生理学的反応に及ぼす影響の検討(バイアスの確認)】 ①チップ装着による行動学的変化の評価(網羅的行動テストを用いた行動観察)②末梢組織におけるストレス反応の評価(ELISA法による生化学的分析)(今年度の進捗)チップを装着し、オープンフィールドテストなどの行動学的試験を行った結果、非装着ラットと比べ、有意な差は認められず、ストレスホルモンや糖代謝など末梢ストレス反応においても顕著な影響がみられないことから、本研究のシステムは極めて生理的なストレスフリーな実験環境であったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のような研究成果から、今年度は動物モデルによる行動実験を行う上で極めて重要な実験環境のセットアップに成功したと言える。これは世界をリードする先駆的なシステムであり、次年度以降の生理学的な検討の基盤を充分に整えることができたと考えられる。 今年度に確立した、オリジナルの動物実験システムを用いて、2018年度は身体活動量の増加と、心身の健康増進の連関およびそのメカニズムを解明する実験的な検討を行う。具体的には次に示すような課題に対して、解答を求めることが可能となる。これらのことから当初の研究計画通りに順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、自発運動量を増加させる方法として、運動(エクササイズ)に依存しない身体活動量の増加法を考案することを目指している。研究推進の具体的な方策としては、多層階の飼育ケージを作成し、さらにさまざまな身体活動ツールを配置することで日常生活における自発的な身体活動量の増加を目指すものである。 このオリジナル飼育ケージを用いる際に、極めて重要な問題は身体活動量の定量化である。そこで我々は、これまでにラットの身体に装着する小型活動量計を用いて、常に身体活動量を測定する方法を考案した。しかし、この方法には電源供給の問題や装着する重量が大きいため身体的な負荷がかかるなどの深刻な問題があった。この問題を解消するために、本研究では電気工学の研究者の協力をいただきながら、小型身体活動量計に対する無線給電法の確立およびそれによる軽量化に取り組んでいく。 このシステムを用いて、複数のラットを同時に飼育しながら、それぞれの身体活動量について、長期間の測定をすることが可能となる。これにより、個々の身体活動量と脳機能や身体機能の関係性を検討する基礎を固めることが可能となる。これを基に、我々は、この多層階性豊かな環境(身体活動量増加型豊かな環境)で飼育したラットの脳内神経伝達物質量および筋機能を解析し、身体活動量の増加と健康の関係を解明していく予定である。
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