研究実績の概要 |
エストロゲンの減少は,外傷発生率の増加や回復の遅延など,多くの悪影響に関連する. エストロゲンは筋の損傷や炎症に影響する可能性があり,特にヒトの骨格筋における修復や回復への生理学的作用および潜在的作用は明らかになっていない.よって本研究では,エストロゲンが骨格筋の炎症および修復過程に及ぼす影響を経時的に観察した. 実験は動物を用いた基礎実験と,ヒトを用いた応用実験にて行われた.実験動物としてWistar系雄性および雌性ラットを用いた.筋再生の過程におけるエストロゲンの効果を調査するために,コントロール (C) ラット,偽手術(Sham) ラット,卵巣摘出 (OVX) ラットならびに卵巣摘出およびエストロゲン投与 (OVX+E)ラットの骨格筋 (前頸骨筋 : TA) を塩酸ブピバカイン (BPVC) で損傷させた.損傷骨格筋は,無傷の筋と比較して筋損傷後に筋中カルパイン3 (CAPN3) 活性が上昇傾向を示した.損傷した骨格筋におけるHSP70質発現は,OVXラットよりCラットおよびOVX + Eラットで高かった (P<0.005, P<0.05).Pax7およびMyoD発現は衛星細胞の活性化および増殖を定義するのに役立ち,エストロゲンによって増加することが明らかになった (P<0.05).これらの知見は,骨格筋損傷に対するHSP70および筋衛星細胞の応答が女性特異的ホルモンのエストロゲンによって媒介することが考えられる. ヒトを対象とした実験として,成人女性を対象に腓腹筋に筋痛を作成し,生理周期の差異による筋痛回復を,酸素摂取量,血中酸素飽和と共に観察した結果,黄体期のみにおいて多くの人が酸素摂取量に対し血中酸素飽和度が負の傾向を示しており,筋痛レベルとの関連性が示唆された.
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