脂肪酸結合タンパク質4(FABP4)は、脂肪分解や脂肪酸の輸送など脂質代謝の調節に関与するタンパク質であり、主に脂肪組織から血液中に分泌される。血液中への分泌は脂肪分解反応により調節されていることが示唆されており、脂肪分解の増加がFABP4の血中への分泌を高めると考えられる。一過性有酸素性運動中にも血中FABP4の増加が報告されており、この運動中の血中FABP4増加は、運動による脂質代謝亢進に伴うものと考えられる。しかしながら、運動中の脂質代謝と血中FABP4との関係についての報告は限られる。そこで、令和3年度には、運動強度の異なる有酸素性運動中および運動後のFABP4濃度の変化と脂質代謝との関連を検討した。運動は低強度 (LE)および中強度 (ME) の一定負荷運動を実施した。また、運動終了後1時間は安静とした。運動前、運動中および運動後において血中FABP4濃度および脂質代謝に関連するホルモンや代謝産物を測定した。LEおよびMEともに運動中、血中グリセロール濃度(脂肪分解指標)は有意に上昇したが、運動中、血中FABP4濃度に有意な変化は認められなかった。一方、運動後、血中グリセロール濃度は安静時と同等まで有意に低下したにも係わらず、血中FABP4濃度は、安静時および運動時に比べ有意に増加した。その増加は、LEおよびMEで違いはなかった。このことから、運動強度にかかわらず、血中FABP4濃度は運動中ではなく、運動後に増加することが明らかとなった。運動後の血中FABP4濃度の増加は、運動中に生じる何らかの要因に起因すると考えられ、今後はその要因を明らかにしていく。その要因を明らかにできれば、血中におけるFABP4の新たな生理的役割の解明につながり、生体指標の開発にも応用できる可能性がある。
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