特殊な力学的条件下で生じるヒトの走行動作での運動記憶(学習効果)について、運動を司る脳領域に対する直流電気刺激で操作できる可能性について調べてきた。互いに性質の異なる2種類の力学的条件下で生じる特性の異なる運動記憶と、異なる脳状態を生じさせる2種類の電気刺激(陽極刺激および陰極刺激)の組み合わせにより、特定の運動記憶を想起させる可能性について検討するものである。前年度までに既に実施した実験の計測データについて、走行時の地面反力データについて、4年計画の最終年度である2021年度は前年度までの検討対象とは異なる新たな指標に基づいて検討を進めた。被験者9名の計測データに基づく検討より、仮説として当初掲げた、経頭蓋直流電気刺激により生じる特定の脳状態により想起される運動記憶の可能性を示す明確な結果は得られなかった。標的とする脳部位への刺激効率の問題など十分にクリアできていなかった可能性や、実験プロトコルに検討の余地があったかもしれない。一方、当該脳部位の状態と単純に結び付けて考えることはできないが、少なくとも当該脳部位の興奮状態に影響が見込まれる、被験者の走行時における身体の体幹部に対する前方および後方からの牽引を用いた予備計測の結果では、牽引の方向(前と後)に特異的に運動記憶が想起される結果が明確に示された。この実験系で想定される種々の要因について詳細に検討を重ね、論文として専門学術誌への投稿を進めている。
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