定期的に球技などの複雑な運動を行うことは認知機能,特に高次の認知機能として知られる実行機能に対して効果を有することが明らかになっている.それに対して,一過性の複雑な運動に関しては十分に研究されていない.複雑な運動は実行機能を向上させるという成果もあれば,複雑な運動の効果は単純な運動のそれよりも劣るという研究もある.一過性の複雑な運動が実行機能に対して好ましい影響を与える原因として,複雑な運動に求められる認知的負荷による脳の活性が考えられている.一方,複雑な運動が単純な活動よりも劣るとする研究では,その認知的負荷が中枢性の疲労を招き,運動の効果を相殺すると考えられている.このように一過性の複雑な運動は単純な運動よりも脳を活性化する可能性はいずれの研究でも共通している.しかしながら,これまでに一過性の複雑な運動が脳の活性にどのような影響を与えているのかを検討した研究は行われていない.そこで本研究では,実行機能と脳の活性度に対する一過性の複雑な運動と単純な運動の効果を比較した.健康な大学生24名(女性9名)は,10分間のバドミントン,ランニング,また統制条件として座位安静の前後で中立課題と不一致課題で構成されるストループ課題を行った.その結果,複雑な運動であるバドミントンは単純な運動であるランニングと比較してストループ課題の中立課題と不一致課題の両方を向上させること,特に,実行機能が求められる不一致課題を選択的に向上させることが明らかとなった.その一方で,バドミントンもランニングも実行機能に関連するPFCの活性度には影響しないことも明らかとなった.複雑な運動は脳機能を効率化することにより,実行機能を向上させる可能性がある.
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