研究課題/領域番号 |
18K10856
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
白土 健 杏林大学, 医学部, 助教 (60559384)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マクロファージ / インスリン受容体 / インスリン / 酸化低密度リポタンパク質 / 脂肪滴 / 脂質代謝 / マウス |
研究実績の概要 |
平成30年度は、マクロファージ(MΦ)のインスリン受容体シグナル伝達系と脂質代謝調節機構のクロストークを明らかにするため、成熟期雄性C57BL/6Jマウスから採取した腹腔滲出性MΦ(peritoneal exudate MΦ:PEMΦ)および腹腔常在性MΦ(peritoneal resident MΦ:PRMΦ)を用いて、酸化低密度リポタンパク質(oxidized low-density lipoprotein:ox-LDL)取込みによる細胞内脂肪滴の形成、および各種の脂質合成調節酵素と脂質取込み受容体の発現レベルに対するインスリンの影響を検討した。まず、PEMΦは、1~5 nMの生理的濃度のインスリンに反応して、Aktのリン酸化が引き起こされた。しかし、PEMΦを終濃度50 μg/mLのox-LDLを含む培地で24時間培養しても、脂肪滴の形成そのものが認められなかった。一方、PRMΦも、1~5 nMの生理的濃度のインスリンに反応して、Aktのリン酸化が引き起こされた。遊離脂肪酸と遊離コレステロールの各合成酵素の発現をそれぞれ調節しているsterol regulatory element-binding transcription factorのアイソフォーム1と2、および脂質取込み受容体のCD36のmRNAレベルは、インスリン刺激による有意な変化を示さなかった。Aktによるリン酸化を受けることで活性化し、脂質のde novo合成を触媒するATP citrate lyaseのリン酸化レベルは、インスリン刺激で増加したが、ox-LDL取込みによる脂肪滴の形成に明らかな差は認められなかった。以上の結果から、PEMΦはインスリン刺激に応答するが、ox-LDL取込みによる脂肪滴の形成そのものが起こらない一方、PRMΦもインスリン刺激に応答するが、ox-LDL取込みによる脂肪滴の形成には影響がないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度に得られた結果から、PEMΦはインスリン刺激に応答するが、ox-LDL取込みによる脂肪滴の形成そのものが起こらない一方、PRMΦもインスリン刺激に応答するが、ox-LDL取込みによる脂肪滴の形成には影響がないことが示唆された。今後、MΦのインスリン受容体シグナル伝達系と脂質代謝調節機構のクロストークを明らかにするため、インスリン刺激、ox-LDL取込み、脂肪滴を検出するためのプローブ等の実験条件を改善して、さらに検討を行う必要がある。そのため、本研究は、現時点において「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、MΦのインスリン受容体シグナル伝達系と脂質代謝調節機構のクロストークを明らかにするため、インスリン刺激、ox-LDL取込み、脂肪滴を検出するためのプローブ等の実験条件を改善して、さらに検討を継続する。その結果として、MΦではクロストークが認められなかった場合、MΦの前駆細胞である単球を用いて同様の解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、脂質合成調節酵素と脂質取込み受容体のmRNAレベルを分析した結果、インスリン刺激による有意な変化が認められなかった。そのため、抗体試薬の購入を控えたことが、次年度使用額が生じた主な理由である。その研究費は、引き続き各種のプローブや抗体の購入のために使用する予定である。
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