初年度は、マウス腹腔常在性マクロファージ(PRMΦ)を用いて、酸化低密度リポタンパク質(ox-LDL)取込みによる細胞内脂肪滴の形成および各種の脂質合成調節酵素のタンパク質発現・リン酸化レベルに対するインスリンの影響を検討した。PRMΦは生理的濃度のインスリンに反応してAktのリン酸化が引き起こされた。Aktによる活性調節を受けて脂質のde novo合成を触媒するATPクエン酸シンターゼのリン酸化レベルも増加していたが、ox-LDL取込みによる脂肪滴の形成には増強作用が認められなかった。以上の結果から、マクロファージのインスリン受容体シグナル伝達系と脂質代謝調節機構との間には明確な関係性が示されなかった。 次年度から最終年度は、マウス腹腔滲出性マクロファージ(PEMΦ)の抗炎症性M2型マクロファージへの極性化に対するインスリンの影響とこれに対する10週間の自発性走運動の効果を検討した。インターロイキン-4(IL-4)によるPEMΦのM2型マクロファージ分化マーカー遺伝子(Arg1およびMgl2)のmRNA発現誘導はインスリンによって増強され、この増強作用は運動群の方が対照群よりも大きかった。IL-4による転写因子STAT6のリン酸化亢進は両群共にインスリンによる増強作用が認められなかった。しかし、STAT6の核内移行はインスリンによって増強され、この増強作用は両群間で差がなかった。インスリンはSTAT6の核内輸送を増強し、運動はSTAT6の転写活性を促進させると推察される。一方、インスリンによるAktのリン酸化亢進は両群共に同程度引き起こされたことから、特に運動群で強く認められたM2型マクロファージ分化マーカー遺伝子のmRNA発現誘導に対するインスリンの増強作用には、Aktを介さないシグナル伝達が関与していると推定される。以上の結果から、習慣的運動は、インスリンによる抗炎症性M2型マクロファージ極性化の増強作用を促進することが示唆された。
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