研究実績の概要 |
激しいトレーニングを重ねるアスリートにとって、栄養の代謝は競技パフォーマンス向上や健康維持のために極めて重要な因子である。代謝は三大栄養素を効率よく利用するために重要な概念であり、代謝に問題があると栄養失調と類似の症状を来す。ところが、アスリートの食事内容や食生活を調査したところ、ビタミンやミネラルに比べて炭水化物の摂取割合が多いなど、栄養摂取の偏りがみられた(麻見et al., 2005;飯出 et al.,2010)。このような栄養摂取のアンバランスが顕著になると、代謝障害によりアスリート特有の慢性疾患(スポーツ性貧血やオーバートレーニング症候群、自律神経失調、高尿酸血症、喘息、循環器疾患など)に罹患するリスクが高くなる。明らかな症状が無くても不定愁訴や所謂“調子のムラ”など自覚症状に乏しいものの競技パフォーマンスに影響するような体調不良に繋がるケースが多くみられる。また2007年に米国スポーツ医学会より、女性アスリートに好発する健康障害として“女性アスリートの三主徴”(利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症)が発表された(Nattiv A. et al., 2007)。これは、鉄、カルシウム、ビタミンB群、タンパク質など代謝に関わる栄養の不足と深い関係にあることが分かっており、現役期間の健康状態を悪化させるだけでなく、引退後の骨折リスク増加など生涯を通じた影響が示唆されている。このようにアスリートの栄養アンバランス是正による代謝改善は喫緊の課題である。本研究では、長距離走の記録に相関する血液検査項目を多変量解析により同定し、そのメカニズムを解明する。さらに腸内環境の指標として重要な糞便中短鎖脂肪酸量のプロファイルを多変量解析することによって身体特性や生活習慣との相関性を見出す。これらにより、アスリートの代謝改善に関わる複数の要因の相互作用を調べることが可能となる。
|