本研究の目的は、地域の少年サッカークラブの指導者として働く元「ノンエリート」サッカー選手の生活実践を読み解き、スポーツ人材の地域社会への定着過程を明らかにすることである。最終年度となる今年度は、対象とした9クラブの指導者への聞き取り調査及び活動の視察を行い、補足データの収集を行った。また、全体データの分析及び考察を行い、その研究成果を『サッカーピラミッドの底辺から~少年サッカークラブのリアル~』(道和書院)として公表した。 サッカーピラミッドの底辺で活動する指導者たちは、経済的生活の不安定さと将来展望の不透明さを自覚しながらも、会費という限られた収入源と活動場所(グランド)確保の困難さなどの不安定な条件のなかで、どうにか「サッカーのある生活」を維持していた。しかし、指導者たちは決して搾取されるだけの奴隷ではなく、自らの置かれた生活条件を見極めつつ「サッカーのある生活」を維持しようとしていた。少年サッカークラブの運営は、指導者たちにとっては「賃金」を得る経済活動であるが、一方では、さまざまな社会関係を通して達成される活動でもあることが分かった。 各事例から、成功と失敗を経験することでしか得られない経験的な知識を重視し、局所的で極めて実践的な取り組みを繰り返すことで「安定化」が図られていることが示唆された。そのようなクラブ経営の「安定化」があるからこそ、コーチとしての生活を維持することが可能になっていると考えられる。
|