研究課題/領域番号 |
18K10861
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
河合 一武 日本大学, スポーツ科学部, 教授 (50214581)
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研究分担者 |
西村 幸男 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, プロジェクトリーダー (20390693)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脊髄歩行中枢 / 経脊椎磁気刺激 / 歩行様運動 / 脊髄機能地図 |
研究実績の概要 |
ヒトの「足の速さ」は、筋生理学や運動力学から解析されたものの、筋力や動きを制御している神経メカニズムは未だ基礎的な神経基盤しかわかっていない。動物実験では、脊髄への電気刺激等により歩行運動が誘発されることから脊髄に歩行を生成する脊髄歩行中枢の存在が知られていた。共同研究者の西村らは、ヒト腰髄への連発磁気刺激により誘発される歩行様運動がその部位を腰髄に特定することで、大脳皮質一次運動野の「体部位再現」と同様、脊髄でも機能地図が描けることを明らかにした。本研究では、この脊髄機能地図の形成にスポーツ経験や走パフォーマンスがどのように反映されるかを明らかにし、「足の速さ」を神経生理学から検証することを目的とした。令和元年度は、研究の前段階として磁気刺激強度と刺激部位との関係から、効果的に脊髄歩行中枢を駆動するために必要な刺激強度を同定することにより、脊髄歩行中枢の神経回路がリクルートされる機序の一端を解明することとした。 その結果、両脚が同位相で動くホッピング様運動、左右脚が逆位相で動く歩行様運動、位相が不明瞭な運動の3種類が腰髄への経脊椎磁気刺激によって誘発された。全被験者で歩行様運動が誘発されたのに対し、ホッピング様運動は 7 人中 5 名で観られた。磁気刺激の低強度ではホッピング様運動が、高強度では歩行様運動が誘発される傾向が観られた。これらの結果から、腰髄への経脊椎的磁気刺激により、下肢にホッピング様運動と歩行様運動が誘発でき、歩行様運動を誘発するために必要な刺激強度はホッピング様運動の刺激強度よりも高いことが明らかとなった。また、各運動を誘発するために必要な刺激強度が異なることから、ホッピング様運動と歩行様運動は異なる神経メカニズムで駆動されていることが示唆された。 なお、前段階での研究結果はスポーツ科学研究(16, 49-61, 2019:早稲田大学)に掲載済である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記、【研究実績の概要】で説明の通り、本研究で必要な前段階での知見(磁気刺激強度と刺激部位との関係から脊髄歩行中枢を駆動する刺激強度の同定)を得ることができた。さらに、解決しなければならない問題として、軽運動(ウォーミングアップ)により脊髄歩行中枢機能(脊髄機能地図)に短期的な変化が起こりうるかを検証する必要性が生じた。この変化の有無を確認しておけば、論文審査の際に予想される実験直前の被験者の運動状況に関するコメントに対処可能となる。この検証には、8名程度を対象とする短期間での実験により対応できることから本年6月末までの終了を見込んでいる。 これらの知見を基に、科研費申請テーマである脊髄歩行中枢機能からみたスポーツ選手の「足の速さ」との関係を、運動経験を含むスポーツ競技特性から明らかにしていく。現在、当初予定していた5競技群とコントロール群のうち、陸上競技の短距離と長距離、バレーボール、重量挙げの4競技群について、それぞれ7名ずつの実験およびデータ処理を終えている。 以上のとおり、実験はおおむね順調に進行し、研究の前段階で必要とされる知見を得ることができたが、さらに軽運動による脊髄歩行中枢機能への短期的な変化の存在を検証するのに期間を要するため、本研究計画の最終年を迎えるにあたっては「(3)やや遅れている。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず上記の【現在までの進捗状況】において、解決しなければならない問題として挙げた軽運動(ウォーミングアップ)による脊髄歩行中枢機能(脊髄機能地図)への短期的な変化についての検証を本年6月末までに終える。なお、データ処理の人員を増やすとともに、PC本体を購入してデータ処理の効率化を図る予定である。 そして、科研費申請テーマである脊髄歩行中枢機能からみたスポーツ選手の「足の速さ」との関係を、運動経験を含むスポーツ競技特性から検証するため、予定していた体操競技とコントロール群それぞれ7名ずつの実験とデータ処理を本年9月末までに終える。並行してデータ解析と図表の作成を行い、年内での論文の執筆と投稿に備えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の【現在までの進捗状況】において、「(3)やや遅れている。」と判断したとおり、解決の必要がある課題をクリアするために期間を要した。このため、予定していた主要実験(脊髄機能地図作成)の実施がやや遅れ、データ処理を担当する者への人件費ならびに被験者への謝金の支払いが少なく、当初の予算より減額となっている。さらに、物品購入では、同機能・同スペックの型落ち品を購入したため、物品費として計上していた予算額を使用せず、節約したことも次年度使用額が生じた理由である。 今後の使用計画としては、1)実験をすべて終了して前述の人件費と謝礼を使い切る。2)データ処理の効率化を意図してPC本体のみを購入する(モニターは既存のものを利用する)。3)より高いインパクトファクターをもつ海外のオンラインジャーナルへの投稿による高額な掲載料(30~60万円)に備える。1)~3)により、予算消化が期待できる。
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