研究実績の概要 |
動物実験では、脊髄への電気刺激等により歩行運動が誘発されることから脊髄に歩行を生成する脊髄歩行中枢の存在が知られていた。我々は、ヒト腰髄への非侵襲的な連発磁気刺激により両下肢に律動的な歩行様の運動が誘発されることを確認している(Sasada et al., J Neurosci 2014)。さらに、この歩行様運動が誘発される部位を腰髄に特定することで、脳の「体部位再現」と同様、脊髄でも機能地図が描けることをも見出した。本研究では、この脊髄機能地図の形成にスポーツ経験やトレーニング効果がどのように反映されるかを明らかにし、スポーツ選手のスプリント能力を神経生理学から検証することを目的とした。 まず、律動的な歩行様の両下肢運動を誘発するための刺激強度特性を調べた。その結果、3種類の下肢運動の出現を確認した。そして、低強度ではホッピング様運動が、高強度では歩行様運動が誘発されたことから、ヒト腰髄に歩行とホッピングのための異なる神経回路の存在を示唆した。さらに、両下肢筋電図の解析から歩行様運動ではより多くの筋活動が認められた。 次に、同法を用いて6競技のスポーツ選手を対象に、先の実験結果から得られた歩行様運動誘発のための効果的な強度で腰部18か所を磁気刺激した。歩行様運動が誘発される部位を同定した脊髄機能地図を競技種目別に比較した結果をもとに、そのスプリント能力を神経生理学的観点から検証した。また、ランニングやジャンプ等の運動介入により脊髄歩行中枢の活性化がどのように影響されるか、その可塑性を検証中である。
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