研究課題/領域番号 |
18K10864
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松岡 宏高 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (10367914)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スポーツイベント / 社会的影響 / オリンピック |
研究実績の概要 |
2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけて、その経済効果や国民のスポーツへの関心の高まりといった期待から、公的資金の無駄使いになるのではないかとの心配まで、スポーツイベントが社会に与える影響に注目が集まっている。しかしながら、その多くについては科学的根拠に基づいた見解ではない。本研究は、東京オリンピック・パラリンピックを題材に、その社会的影響を学術的根拠に基づく尺度を用いて測定し、科学的な検討を試みる取り組みである。測定においては、その影響を認識する住民を対象とするため、ある程度の代表性の担保が可能なインターネット調査を活用する。尺度には、経済活性化、イメージ向上、地域愛着の向上、スポーツ関与の向上、日常生活の妨害、事故・事件のリスク、行政予算の浪費などの要因を含めて、ポジティブ、ネガティブの両面からの分析を行う。 まず本年度は、スポーツイベントの社会的影響に関する現在の実践的および学術的な取り組みと課題について探索を試みた。まず実際の現場においては、持続可能な開発(SDGs)を提言している国連が、スポーツを持続可能な開発における重要な鍵となるものと認識していることから、IOC、FIFAをはじめ、北米のプロスポーツチーム、そして日本国内のスポーツ組織も、SDGsへのスポーツの関わりを強く意識した取り組みを進めている。また、学術的には、北米スポーツマネジメント学会では、プロスポーツ組織の社会的責任に関するレビュー論文が発表され(Walzel et al., 2018)、2019年にはスポーツと社会や幸福に関する特集が計画されたりしている。そして2018年にオーストラリアで開催された国際学会では、74演題中10演題が”social impact & social inclusion”に関わるものであり、以前に比べて多くの注目を集めていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに研究者自身が取り組んだ「スポーツの影響」「スポーツの価値」に関連した研究を再検討し、必要に応じてすでに収集しているデータの再分析を行った。具体的には、スポーツイベントの社会的影響を測定する尺度の再検討を行い、研究成果を国際学会で発表した(Annual Conference of Sport Management Association of Australia and New Zealand(2018年11月))。スポーツイベントの社会的影響を構成する5つのポジティブな影響要因と3つのネガティブ要因で構成した尺度モデルを再分析した結果、モデルが改善され、収束的妥当性と弁別的妥当性が確認できた。さらに概ね基準を満たす適合度が確認された。 また、改めてスポーツイベントの影響やレガシーに関連する先行研究の再検討を行い、大規模スポーツイベントの社会的影響を測定する尺度の再検討に必要な概念の整理、および測定モデルに含まれる要素と具体的な質問項目の再検討を行う。 さらに、スポーツイベントの社会的影響に関する現在の実践的および学術的な取り組みと課題について学会等にて情報を収集した。 ただし、2019年度に計画している量的データを収集する調査の準備が十分には行えず、その作業が次年度への積み残しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に計画している量的データを収集する調査の準備が十分に少し遅れが生じているが、3年間の研究プロジェクトに必要な基礎的な情報はある程度収集でき、研究遂行の目途は立っていると言える。 今後は、本研究の目的を果たすために、東京オリンピック・パラリンピック開催前年である2019年に比較データを収集するための調査計画を設計する。具体的には、インターネット調査会社の検討と決定、対象地域と人数の確定、調査項目の確定(特にスポーツイベントの社会的影響を測定する尺度と項目については慎重な最終検討をする)を行う。 東京オリンピック・パラリンピックについての知識がある程度ある対象者からデータ収集を行う必要があるため、スクリーニング調査を用いて本調査の対象者を絞る。そのうえで2019年度中に、本調査を実施する(東京都内居住者1,500人、3他府県(例:仙台、大阪、福岡)で各500人よりデータを収集する)。最終的には、大会前と大会後の二時点において大会開催の影響に対する人々の意識を測定し、比較する必要があるため、事後調査(2020年度実施予定)のタイミングも考慮したうえで、事前調査(2019年度実施予定)の時期を決定することになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に計画している量的データを収集する調査の準備が十分には行えず、その作業に係る経費が残った。
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